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俳句的生活

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カテゴリーアーカイブ: 本の紹介

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双子のライオン堂だより(4)

俳句的生活 投稿日:2015年3月14日 作成者: 信弥竹田2015年3月15日

『本なんか読まなくたっていいのだけれど、』幅充孝、晶文社

「読んでみるのもいい。」と帯に続く。
本好きの人ーー特に文学好きーが何度何度も思うことを弁明しているなんとも惹かれるタイトルである。
著者の幅充孝氏は、ブックコーディネーターを名乗って新しい本との関わり方、関わらせ方を日々模索しつづけている人だ。具体的な仕事としては、本屋さん以外の場所で本との出会いを促す仕掛けを作ったり、病院などの公共空間の本棚をプロデュースしたりしている。
本著は、ブックコーディネーターとして本に囲まれた生活からの気づきが綴られたエッセイ集である。
中でも印象的なエピソードは、「地産地消」というキーワードを本に当てはめて、地域や作家を巻き込んで展開されるプロジェクトの話だ。
志賀直哉の小説「城の崎にて」が書かれた兵庫県豊岡市の温泉宿「三木屋」のラウンジにライブラリーを作ることになった氏だが、いつの間にか街全体でのプロジェクトになっていく。そして文学の街と温泉の街をどう融合させるかを思案した結果……。
氏の仕事はどれもユニークなアイデア満載で、とても刺激的。ただ本を読め!と言っただけでは読書離れは進む一方だろう。緩やかに、良い本と良い出会い方ができたらその人はずっと読書をしていくはずだ。

『批評メディア論』大澤聡、岩波文庫

著者である大澤聡さんを知ったのは、とあるラジオ番組だった。その時すでに本著に取り掛かっている旨の話をしていた。たぶん4、5年前だっただろう。スピーカーから聞こえる軽快かつ丁寧な話し方に好感を覚えた。それと同時にこの人の本が出たら読みたいとも思った。
本著の中にもある通り、書き上げるまでに約7年の歳月かかっているという。時間をかければ良いというものではないが、膨大な量の資料と対峙したのだろうと一読して納得させられる。軸のしっかりとした論考である。文体にもそれ相当の思い入れを感じる。それは先のラジオから聞こえてきた声とはまた違うリズムを纏ったーーリズムを消したーー文体だからだろう。
本著の全体像は、誌上で展開させる批評・評論の内容ではなく、批評・評論を支えてきたシステムを中心に細かく分析していくことで、そのシステムに宿る問題ーー固有名・匿名の問題などーーを浮き彫りにする。また戦前から続く批評メディアのシステムが地続きで現在まで繋がっていることにも改めて注目させる。
類書ではないが、伊藤整氏の『近代日本の文学史』を読んだときの充実感を感じた。文芸や批評においても、新しい時代に臨むために、過去を省みる行為はとても大切なことである。次の一歩を考える時期なのだろう。

『歌仙 一滴の宇宙』を読む

俳句的生活 投稿日:2015年3月5日 作成者: dvx223272015年3月5日

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 歌仙に関してはまったくの素人であったが、このサイトの「うたたね歌仙」に二十回近く参加してみると「なるほど、人はうまい句を付けるものだ」と幾度も感心させられるようになる。人の付け句にこだわりが持てるようになれば、第三者が巻いた歌仙も少しは鑑賞できるかもしれない、と、そんな思いで読みはじめた本書だったが、しかし、そうは問屋がおろしてはくれない。「句を分ち書きにして文字に高低をつけそのうえ適度に一行アキを配して音とリズムを際立てるという(跋より)」この本の表記がそもそも尋常ならざる試みなのだ。
 最初は五七五のリズムで本書を読み進めていったがどうもしっくりこない。五七五七七/五七五七七、とリズムのいいところで一行アキが入るのではなく、場面場面の変化を読み取ってアキが入ってくる。収録されている七つの歌仙から「夏の彼方」の1(歌仙でいう「初表」)を見てみよう。

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 この章、ごらんのように七五五/七七/五七五七七/五七五七七、という四節から成り立っている。まるで、歌仙の五七五七七という桎梏から、つかの間、解放されて自由な場面展開を楽しんでいるようでもある。七五五で息を入れ、次の七七でまた息を入れる、まるで詩を読んでいるような錯覚にとらわれる。実際

——-

夏の彼方へ
流れゆく大河

天をささへて
白百合一輪

絶壁をじわじわ攀じる翁
巣立ちをならふ大鷲の雛

朧月
濁りて重し
ビルの谷
子はつぎつぎに
シャボン玉吹く

——-

と簡単に詩に置き換えられそうである。

 暗喩というのは、言葉と言葉の間に発生する磁力のようなものであるが、この歌仙の一行アキによって切り離された断崖にもまたそうした磁力が発生していて、ともすれば糸の切れた凧のように、どこまでも飛んで行きかねない「節」をあやうくつなぎとめているようである。西脇順三郎の詩を思わせる自由闊達な場面展開と歌仙の持つ宿命的な桎梏が相同居した不思議な一冊であった。(北側松太)

双子のライオン堂だより(3)

俳句的生活 投稿日:2015年2月4日 作成者: dvx223272015年2月6日

*『向井豊昭の闘争: 異種混交性(ハイブリディディ)の世界文学 』著:岡和田晃/未来社

 向井豊昭という作家の存在を知らなかった。本書をきっかけに、出会うことが出来て良かった。
 1933年に東京で生まれ、青森で育ち、北海道で教師生活をした後に、東京へ「逃亡」。中央文壇デビューは1995年、六十二歳のときだった。その後、三冊の商業出版と無数の雑誌掲載作、その他同人誌や手書き原稿を多数遺して2008年に死去。向井は「<アイヌ>の出自ではないにもかかわらず、<アイヌ>問題をみずからの核となるモチーフとして内に抱きながら、創作活動を続け」、「原稿は埋もれたままに放置され、いまだ、その文業には確かな評価が与えられていない」一風変わった “不遇の作家”である。
 本書は、そんな向井豊昭という「忘れられた作家」について、文芸評論家 岡和田晃によってその真価を問い直す挑戦的評伝である。作家の遺した膨大な資料を、丁寧に拾い集め、吟味し、それらと対峙した結果生み出された。これは単なる評伝作成を超えた「『先人の魂の破片』を接合する行為」と言える。
 冒頭に掲げられた「『怒り』の力を取り戻すこと」という力強い宣言に惹かれ一気に読んだ。本書から立ち上る熱い意志は、「怒り」を忘れた現状に不満を抱きつつも身動き取れないでいる我々への文学(向井)からの檄である。
 著者が編集した本書の姉妹編『向井豊昭傑作集 飛ぶくしゃみ』も併せて読んで欲しい。
 現代文学に、閉塞感を感じている読者にぜひ手にとってもらいたい本である。

*『文盲:アゴタ・クリストフ自伝』著:アゴタ・クリストフ、訳:堀 茂樹/白水社

「文盲」というタイトルが衝撃的だった。彼有名な『悪童日記』を書いた作家による自伝の題名に「読み書きができない」という意味の言葉が使われていたからである。
 著者は、1935年ハンガリーに生まれ、1956年ハンガリー動乱の折に、難民としてスイスに亡命する。フランス語圏内で生活する上で、「敵語」であるフランス語を習得していく。そして、その「敵語」で小説を書くことになる。本書は、その苦難と葛藤を描いたアゴタ・クリストフの自伝である。
 著書は4歳から身近にあった本を片端から読むほどであったが、スイスに亡命したことで、母語を喪失する。これがタイトルの由来である。そして、そこから「敵語」を習得することで希望を見出すも、一方でアイディンティティをじわじわと殺されている感覚に陥ってもいく。
 きわめて劇的な内容なのだが、本文はいたって冷静である。ゆえに、まじりっけなしの苦しみや痛みがストレートにこちらに伝わってくる。「言語」と正面から向き会いざるを得なかった著者だからこその行き着いた境地なのだろう。
 この本を読み終わった後、『ドストエフスキーと愛に生きる』という映画を思い出した。ロシア文学のドイツ語翻訳者スヴェトラーナ・ガイヤーという人物を追ったドキュメンタリーだ。彼女もまた歴史の動乱に巻き込まれながらも「敵語」を習得することで救われた人物である。
 普段、無頓着に接している「母語」を手放なさないために平和であることを願う一冊。(武田信弥)

@双子のライオン堂だより(2)

俳句的生活 投稿日:2014年9月25日 作成者: dvx223272015年2月24日

@双子のライオン堂だより(2)

*『失われた感覚を求めて』三島邦弘/朝日新聞出版

「ひとり出版社」というのをご存知でしょうか。
読んで字のごとく、企画から編集、販売まで、一人でやってしまう出版社のことを指します。いま、こうした出版社の形態が業界の未来を考える上で、改めて注目されています。また同じように、地方で出版社を始める、といった気風も高まっているようです。
本書は、まさにその挑戦の一部始終を、赤裸々に語るドキュメンタリーです。
著者がひとりで立ち上げた出版社が、なぜ地方にオフィスを構えることになったのか。東京には、何があって何がないのか。出版の役割とは。著者の問答のひとつひとつに、出版業界に限らず、働くということ、生きるということ、を立ち止まって考える機会を与えられます。

*『はい、チーズ』カート・ヴォネガット/大森望訳/河出書房新社

未発表作品といわれると、少しだけ罪悪感にかられてしまいます。しかし、本書を読まずにはいられません。永遠の沈黙だと、肩を落として7年。ヴォネガットから贈り物が届いた気分です。
表題作を含む14作品を収録した短編集。未発表作だからと侮ってはいけません。ゾッとする作品から読後優しい気持ちになれる作品まで、どれも良質で長編では読めない意外な一面にも触れることができます。ヴォネガットを読んだことのない人にもオススメです。

竹田信弥 says: 2014年8月5日 at 2:07 AM

俳句的生活 投稿日:2014年8月5日 作成者: dvx223272014年8月5日

はじめまして、双子のライオン堂という書店をやっている竹田と申します。長谷川先生より本の紹介などと、お話を頂きましたので、最近読んだ本の感想を書かせて頂きます。ご照覧ください。

hhhh
『HHhH』ローラン・ビネ/東京創元社

とても読み応えある小説です。
大筋はナチスの話ですが、複雑な構造をしている小説です。簡単にまとめるとすれば、「歴史小説を書く作家の物語」となるでしょう。この歴史家(語り手)の歴史への拘りが兎に角すごいです。そして資料と取材の量が伺えます。
随所で緩急つけてくる物語運びにもやられました。読後も緊張感が残る本です。

nijinobunkasi
『虹の文化史』杉山 久仁彦/河出書房新社

まず見た目がとにかく豪華です。オールカラーという挑戦的な造本に本好きとしては心打たれました。
さて内容ですが、科学、宗教、文学とジャンルの垣根を越えた「虹」についての膨大な資料が納められています。
好きなページを開いて眺めているだけで、インスピレーションがが沸きます。

以上

北側松太第一句集「虫干」を読む 藤英樹

俳句的生活 投稿日:2014年2月15日 作成者: dvx223272015年2月7日

 待望の松太さんの初句集が出た。「あとがき」によれば、十八年間の句業の中から二百十五句をまとめたという。安易に句集を出す世の風潮に背を向けた松太さんらしい厳選だ。何度か松太さんの地元新潟や、神奈川で句座を御一緒させていただいている。人見知りで、一見とっつき辛いのは雪国の人ならではか。でも付き合ううち素朴で少年のような人間味がにじむ。酒が入ればなおさら。かつてある人が「人は口から句を吐くが、松太は尻から絞り出す」とその句を形容した。少し下品だが言い得て妙である。前置きが長くなったが、句集の句も何気ないが、一字一句への厳しさを感じた。中でもよいと思うのは

立春の光掬ひて紙を漉く
淡海からあふれて淀の水温む
形代や真つ暗がりを流れゆく
幾重にも山の重なる梅雨入かな
人の世の夕餉のすける簾かな
かささぎの橋に遅れし一羽かな
今朝秋の俎を水走りけり
かく暮れてかく酒となる秋思かな
人の世のはるか高みを鷹渡る
美しき夕日も見ずに蓮根掘る
親よりも少し幸せ根深汁

などだろうか。句会で凄みを覚えた句がほかにもだいぶんあった気がするが、捨てたのだろう。他山の石としたい。余談ながら、松太さんはこの初句集のおよそ一年前に第一詩集「地平」も出された。「あとがき」によれば、こちらも三十年間の詩業の中から厳選された「たぶん、最後の詩集」になるとのこと。「虫干」には「最後」の文言はない。今から第二句集の出るのが楽しみである。

北側松太 says:2013年3月25日 at 12:01 PM

俳句的生活 投稿日:2013年3月25日 作成者: dvx223272013年3月26日

 
 近藤英子さんの第一句集『初音』(角川書店)を読んだ。
 句集のタイトルとなった「初音」は集中の「ゆくりなく衣張山の初音かな」からとられたもの、この句については他のサイトで鑑賞しているので引用してみたい。

 「ゆくりなく」は突然にということ。衣張山を歩いていたら突然に鴬が鳴いたという句である。「初音」だからその年初めての鴬である。
 この句で大切なのは「衣張山(きぬばりやま)」という地名。行ったことはないが、鎌倉を一望できる小高い山らしい。中七にうまく納まるように六文字の地名であること、「キヌバリ」と何かしら女性を感じさせる響きを持つこと、鎌倉幕府ゆかりの山であることなどが、この句を格調高いものにしている。

 句集全体の印象としては、過不足なく描写が行き届いているというところだろうか。端正な俳句が目につくがなかにはしたたかな俳句も顔をのぞかせる。

 金箔の襖は暗し萩若葉

 この句のしたたかさは、きらびやかな金箔を「暗し」と表現したこと、つまりパラドックスを駆使した一句である。

 ゆらゆらと水掬ひけり新豆腐

 本来なら「ゆらゆらと水を揺らして豆腐を掬う」のであるが、「揺らして掬う」という手順を省いて「水掬ひけり」と簡略に表現したことで暗喩が生まれている。

 並べ干す竹瓮を焦がす秋日かな

 「焦がす」という大げさな表現が「秋日に竹瓮を干す」というありきたりな風景を詩にまで高めた一句。

 鯊釣の帰りて堤残りけり

 秋の海辺の風景を、ネガ写真のようにとらえた一句。

 その他にも、

 鳥籠の水にひとひら落花かな
 落葉松に音落葉松に初時雨
 何の苗葭簀立てたるくらがりに
 干梅や塩の結晶生まれつつ
 鏡より春着のわらべ躍り出づ

 などなど、味わい深い句を拾うことができる。ぜひ一読を。

木下洋子 says: 2012年8月9日 at 11:50 AM

俳句的生活 投稿日:2012年8月10日 作成者: dvx223272012年8月10日

 岡野弘彦さんの歌集『美しく愛しき日本』(角川書店)を読みました。一首一首にしずかな衝撃が走り、ふだん心の奥底に眠っていた何かが立ち上がってきました。言霊とはこういうものなのかと思いました。

仇討たば やがて討たるる身とならむ。めぐる輪廻をなげく 運命(さだめ)ぞ

 世を越えて、鎖のように繋がる運命。さあ、君はその鎖を断ち切れるかと問われているようです。

親が子を 子が親を殺す世なりけり。継子話もかたる甲斐なき

 最近、実の親子間の殺人事件が増え心が凍ります。夢から覚めてハッピーエンドとはならない、現実の闇におののきます。

八十すぎてわれは苦しむ。生肌断ち人を殺しき。若き二十に

 戦争では、殺さねば殺される。殺される無念はもとより、殺したという罪の意識はいかばかりであろうかと思い、胸が痛くなります。

日本を知らぬ人らに説かむとせし 日本学ノート 古りてなほ持つ」

 四十代で、交換教授として西欧留学されています。その時の志がそのノートに込められているのでしょう。「古りてなほ持つ」に共感を覚えます。

をみなごは 身をほろぼして生みにけり。火炎かがやく迦具土の神

 「いざなみ」にはじまり命がけで女は子を生みます。母恋ひはそれゆえ、永遠に追い求めるものになるのだと思います。

役人(つかさびと)・政治家(まつりごとびと) 真なき世に生きて 民は何たのむべき

 大地震、津波、原発事故、未曾有の災害は、命を、幸を、奪い去りました。絶望の中、頼みの政治家は保身をはかり、政争に明け暮れています。国民にとって、なんという不幸。あとがきに「身の情念をふりしぼって歌わねばならない運命に、また逢遭した」と岡野さんが書かれている通り、心からの怒りと嘆きと祈りの歌が胸に迫ってきます。

昨夜の桜 花さきみちてありし道。友のむくろを負ひて わが行く

 岡野さんが二十歳の時、軍用列車で移動中、東京大空襲により全車輛を焼かれました。その地獄のような記憶は、心に焼きつき、魂の叫びのような歌になりました。岡野さんと同世代の私の両親の人生にも思いを馳せました。
 岡野さんたちのおかげで、私たちは、今の戦争のない日々を日常と呼び、桜を愛で、富士を美しいと仰げるのだと思いました。この歌集は、私にとって、かけがえのない一冊となりました。

木下洋子 says:2012年7月22日 at 2:58 PM

俳句的生活 投稿日:2012年7月24日 作成者: dvx223272012年7月24日

 長谷川浩子さんの第一句集『白魚』(角川書店)を読みました。
句集を貫く手ごたえは、対象にしっかりと向き合い、その本質を冷静に見極める作者の姿勢にあると思いました。句集の中から心に残った句をいくつか紹介します。

 冬一寸春来て二寸白魚かな

白魚のかがやく命を讃えています。一瞬を切り取る俳句もありますが、揚句は冬から春にかけての白魚の成長ぶりを喜び、いきいきとしたリズムで描いています。

 仕留めたる猪ころがして雪解村
 猪のぬた場のごとく雪解村

生々しい腹のすわった表現は、山深い雪解村のリアルな景色、匂い、暮らしぶりを、どんとした迫力で伝えてくれます。

 いま落ちし椿もあらん百椿図

「百椿図」には永遠の命が宿っているようです。咲き誇る椿。切ってきたばかりを生けた椿。さまざまな椿の中で、作者は「いま落ちし椿」に目をとめます。美しくもはかない一瞬を一句にとどめました。

 疲れ鵜に指噛ませゐる鵜匠かな

鵜飼で何度も潜って魚を獲っては吐かせられる鵜。さぞ疲れることだろう。その鵜をねぎらうように指を噛ませている鵜匠。鵜と鵜匠の一体感があたたかく伝わってきます。この「指噛ませゐる」を見逃さないのが、対象に心寄せる作者ならではだと思います。

 流燈にこの世の手波送りけり

この世からあの世へ向かう流燈に手波を送っています。手波に托す亡き人への思いが、しずかな共感をよび心にひろがります。

この句集では、さまざまなものの命が、深い観点でいきいきと詠まれていて、読みごたえがありました。今後の作品が楽しみです。

北側松太 says:2012年5月4日 at 1:39 PM

俳句的生活 投稿日:2012年5月4日 作成者: dvx223272012年5月4日

山岡麥舟第一句集『麥舟句集』を読む

 『麥舟句集』は山岡麥舟さんの九十二歳にして始めての句集である。
 新年からはじまって、季節別に春、夏、秋、冬と並んだ二百五十三句、九十二歳といえば「枯」や「恬淡」の境地ということになるが、麥舟さんのこの句集は、そうしたところに凭れていないところがいい。帯封にある言葉「飄々として哀切」が、まさにこの句集を象徴する。
 それでは、飄々とした句をいくつか。

土用灸いはく骨皮筋衛門

 土用灸は、夏の土用の丑の日に灸をすえること。夏ばてに効果があるとされる灸である。灸をすえているのは奥様であろうか。曰く「痩せてまるで骨皮筋衛門みたい」というところ。作者は、そうしてからかわれていることを楽しんでいるかのようでもある。そのほかにも、

弾痕も誉もしなびたる裸

 「土用灸」の句同様、自虐的な心持が楽しい。

寒やいと妻に日頃の仇討たる

 「熱っちっち」という声が聞こえてきそう。

一本の土筆へ返す十歩かな

 「あれ、さっき見たのは土筆だったっけ」という十歩のおとぼけ。

立春大吉あら九人目の孫生る
馬の仔に一目惚れして牧通ひ
くたかけの座敷を歩く麦の秋
風蘭の花によろめく齢かな
もろともに汝も老いたり竹夫人
大勢のなかの一人の寒さかな

 などなど、余白のたっぷりとある楽しい俳句、その後に見え隠れする「老い」という「哀切」もまた味わい深い。

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読売新聞「四季」から

若楓京に在ること二日かな      川崎展宏

 京都に一泊したら、ちょうど若楓の季節だったのだ。紅葉の名所だから楓の若葉も美しい。明るい緑の若葉がきれいに晴れた青空に広がっているところなど、繊細な透かし彫りのよう。芽楓から青楓へと移る間の、ほんの十日ほどのこと。『義仲』

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    700円+税
    2016年3月刊行


    『芭蕉の風雅 あるいは虚と実について』
    筑摩選書
    1,500円+税
    2015年10月刊行


    『沖縄』
    青磁社
    1,600円+税
    2015年9月刊行


    『入門 松尾芭蕉』
    長谷川櫂 監修
    別冊宝島
    680円+税
    2015年8月刊行


    『歌仙一滴の宇宙』
    岡野弘彦、三浦雅士、長谷川櫂
    思潮社
    2000円+税
    2015年2月刊行


    『吉野』
    青磁社
    1,800円+税
    2014年4月刊行
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    そのほかの本

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