木下洋子 says:2012年7月22日 at 2:58 PM
長谷川浩子さんの第一句集『白魚』(角川書店)を読みました。
句集を貫く手ごたえは、対象にしっかりと向き合い、その本質を冷静に見極める作者の姿勢にあると思いました。句集の中から心に残った句をいくつか紹介します。
冬一寸春来て二寸白魚かな
白魚のかがやく命を讃えています。一瞬を切り取る俳句もありますが、揚句は冬から春にかけての白魚の成長ぶりを喜び、いきいきとしたリズムで描いています。
仕留めたる猪ころがして雪解村
猪のぬた場のごとく雪解村
生々しい腹のすわった表現は、山深い雪解村のリアルな景色、匂い、暮らしぶりを、どんとした迫力で伝えてくれます。
いま落ちし椿もあらん百椿図
「百椿図」には永遠の命が宿っているようです。咲き誇る椿。切ってきたばかりを生けた椿。さまざまな椿の中で、作者は「いま落ちし椿」に目をとめます。美しくもはかない一瞬を一句にとどめました。
疲れ鵜に指噛ませゐる鵜匠かな
鵜飼で何度も潜って魚を獲っては吐かせられる鵜。さぞ疲れることだろう。その鵜をねぎらうように指を噛ませている鵜匠。鵜と鵜匠の一体感があたたかく伝わってきます。この「指噛ませゐる」を見逃さないのが、対象に心寄せる作者ならではだと思います。
流燈にこの世の手波送りけり
この世からあの世へ向かう流燈に手波を送っています。手波に托す亡き人への思いが、しずかな共感をよび心にひろがります。
この句集では、さまざまなものの命が、深い観点でいきいきと詠まれていて、読みごたえがありました。今後の作品が楽しみです。