双子のライオン堂だより(4)
『本なんか読まなくたっていいのだけれど、』幅充孝、晶文社
「読んでみるのもいい。」と帯に続く。
本好きの人ーー特に文学好きーが何度何度も思うことを弁明しているなんとも惹かれるタイトルである。
著者の幅充孝氏は、ブックコーディネーターを名乗って新しい本との関わり方、関わらせ方を日々模索しつづけている人だ。具体的な仕事としては、本屋さん以外の場所で本との出会いを促す仕掛けを作ったり、病院などの公共空間の本棚をプロデュースしたりしている。
本著は、ブックコーディネーターとして本に囲まれた生活からの気づきが綴られたエッセイ集である。
中でも印象的なエピソードは、「地産地消」というキーワードを本に当てはめて、地域や作家を巻き込んで展開されるプロジェクトの話だ。
志賀直哉の小説「城の崎にて」が書かれた兵庫県豊岡市の温泉宿「三木屋」のラウンジにライブラリーを作ることになった氏だが、いつの間にか街全体でのプロジェクトになっていく。そして文学の街と温泉の街をどう融合させるかを思案した結果……。
氏の仕事はどれもユニークなアイデア満載で、とても刺激的。ただ本を読め!と言っただけでは読書離れは進む一方だろう。緩やかに、良い本と良い出会い方ができたらその人はずっと読書をしていくはずだ。
『批評メディア論』大澤聡、岩波文庫
著者である大澤聡さんを知ったのは、とあるラジオ番組だった。その時すでに本著に取り掛かっている旨の話をしていた。たぶん4、5年前だっただろう。スピーカーから聞こえる軽快かつ丁寧な話し方に好感を覚えた。それと同時にこの人の本が出たら読みたいとも思った。
本著の中にもある通り、書き上げるまでに約7年の歳月かかっているという。時間をかければ良いというものではないが、膨大な量の資料と対峙したのだろうと一読して納得させられる。軸のしっかりとした論考である。文体にもそれ相当の思い入れを感じる。それは先のラジオから聞こえてきた声とはまた違うリズムを纏ったーーリズムを消したーー文体だからだろう。
本著の全体像は、誌上で展開させる批評・評論の内容ではなく、批評・評論を支えてきたシステムを中心に細かく分析していくことで、そのシステムに宿る問題ーー固有名・匿名の問題などーーを浮き彫りにする。また戦前から続く批評メディアのシステムが地続きで現在まで繋がっていることにも改めて注目させる。
類書ではないが、伊藤整氏の『近代日本の文学史』を読んだときの充実感を感じた。文芸や批評においても、新しい時代に臨むために、過去を省みる行為はとても大切なことである。次の一歩を考える時期なのだろう。