北側松太 says:2013年3月25日 at 12:01 PM
近藤英子さんの第一句集『初音』(角川書店)を読んだ。
句集のタイトルとなった「初音」は集中の「ゆくりなく衣張山の初音かな」からとられたもの、この句については他のサイトで鑑賞しているので引用してみたい。
「ゆくりなく」は突然にということ。衣張山を歩いていたら突然に鴬が鳴いたという句である。「初音」だからその年初めての鴬である。
この句で大切なのは「衣張山(きぬばりやま)」という地名。行ったことはないが、鎌倉を一望できる小高い山らしい。中七にうまく納まるように六文字の地名であること、「キヌバリ」と何かしら女性を感じさせる響きを持つこと、鎌倉幕府ゆかりの山であることなどが、この句を格調高いものにしている。
句集全体の印象としては、過不足なく描写が行き届いているというところだろうか。端正な俳句が目につくがなかにはしたたかな俳句も顔をのぞかせる。
金箔の襖は暗し萩若葉
この句のしたたかさは、きらびやかな金箔を「暗し」と表現したこと、つまりパラドックスを駆使した一句である。
ゆらゆらと水掬ひけり新豆腐
本来なら「ゆらゆらと水を揺らして豆腐を掬う」のであるが、「揺らして掬う」という手順を省いて「水掬ひけり」と簡略に表現したことで暗喩が生まれている。
並べ干す竹瓮を焦がす秋日かな
「焦がす」という大げさな表現が「秋日に竹瓮を干す」というありきたりな風景を詩にまで高めた一句。
鯊釣の帰りて堤残りけり
秋の海辺の風景を、ネガ写真のようにとらえた一句。
その他にも、
鳥籠の水にひとひら落花かな
落葉松に音落葉松に初時雨
何の苗葭簀立てたるくらがりに
干梅や塩の結晶生まれつつ
鏡より春着のわらべ躍り出づ
などなど、味わい深い句を拾うことができる。ぜひ一読を。