第一句座(当季雑詠)
・鬼川こまち選
【特選】
夏木立伐つてや風を殺さんと 趙栄順
待ち人がゐる噴水の向かう側 宮田勝
晶子の忌若き戦士の死ぞ悲し 清水薫
雀蜂蜜蜂の巣をずたずたに 藤倉桂
母の指強し夏蜜柑剝けるとき 佐々木まき
籐寝椅子臍に読ませる文庫本 稲垣雄二
君がみし夢のつづきを蚊遣香 長谷川櫂
【入選】
羅をはみ出してゐる火照りかな 氷室茉胡
梅雨晴間叩いて直す小座布団 松川まさみ
洗ひけり一役終へし蛍籠 佐々木まき
睡蓮やおやゆび姫の見ゆる刻 宮田勝
籐寝椅子軋めば応ふわが骨身 玉置陽子
人消えて又現はるる田草取 橋詰育子
大粒の小豆にたくす水無月餅 酒井きよみ
奉書焼鱸はなびらひらくごと 泉早苗
夕立あと水の匂ひの残る空 梅田恵美子
枇杷の実や五指ほのめけるびは色に 泉早苗
とほき世の玉虫とばん御厨子かな 泉早苗
妻と来て豊かな闇に蛍待つ 稲垣雄二
これよりの夏楽しまん行々子 橋詰育子
身を晒し心放ちて瀑布かな 藤倉桂
噴水停止水ばらばらと落としけり 長谷川櫂
森閑と我ゐるところ五月闇 長谷川櫂
・長谷川櫂選
【特選】
雲の峰雲のつぼみが次々と 趙栄順
待ち人がゐる噴水の向かう側 宮田勝
水占や滝のしぶきに濡れながら 梅田恵美子
妻と来て豊かな闇に蛍待つ 稲垣雄二
ひやひやとあぢさい咲くや呉汁食ふ 酒井きよみ
【入選】
梅雨寒や夜陰に響く鳩時計 田中紫春
草取りの後のうたた寝草の夢 越智淳子
水無月餅水のゆたかな国に生れ 酒井きよみ
先づ父にこの世の新茶あつく淹れ 安藤久美
古浴衣ほどきて子らのサンドレス 安藤久美
故郷は鮎飛ぶ頃か水の空 玉置陽子
ひぐらしや早く着きたる山の宿 中野徹
第二句座(席題=父の日、熱帯魚)
・鬼川こまち選
【特選】
熱帯魚浮世離れの覚悟かな 中野徹
熱帯魚からくれなゐのさみしさよ 趙栄順
弾け散るひかりのつぶて熱帯魚 松川まさみ
父の日の似顔絵無精髭ばかり 田村史生
父の日や何あらそひし日々なりし 松川まさみ
産土の野川は知らず熱帯魚 玉置陽子
父の日やかつて孤高の父ありき 長谷川櫂
水換ふるときの華やぎ熱帯魚 安藤久美
【入選】
父の日やまた通り過ぐ宅急便 玉置陽子
父の日は父をおだてて呑む日なり 田中紫春
子を守り妻を守りてけふ父の日 長谷川櫂
今日初めて口きく相手熱帯魚 山本桃潤
父の日や父より十歳年上に 氷室茉胡
熱帯魚挟みて顔や妻と我 稲垣雄二
庭ゐじりせり父の日をはみ出して 佐々木まき
寂しさの赤青黄色熱帯魚 藤倉桂
熱帯魚小遣い値上げねだられて 密田妖子
寄り来るも飛び散りゐたり熱帯魚 花井淳
ぺらぺらのビニールの鰭熱帯魚 稲垣雄二
父の日や汗の匂ひを今もなほ 橋詰育子
・長谷川櫂選
【特選】
はなやぎて何時眠るらん熱帯魚 梅田恵美子
熱帯魚越しにこちらを見てをりぬ 近藤沙羅
贈り物来さうで来ない父の日よ 佐々木まき
【入選】
熱帯魚からくれなゐのさみしさよ 趙栄順
半世紀馴染みし床屋熱帯魚 清水薫
父の日や父より十歳年上に 氷室茉胡
父の日や妻とうなぎを分け合ふて 花井淳
天使魚や月の光をひるがへす 安藤久美
青く光る夜のロビーの熱帯魚 松川まさみ
父の日の何事もなく過ぎにけり 田村史生
父の日やさても夫の誕生日 泉早苗
父の日や汗の匂ひを今もなほ 橋詰育子