春愁のしくと手の甲あたりより | 北海道 | 芳賀匙子 |
花に吸はれて人の死ぬらし四月馬鹿 | 北海道 | 芳賀匙子 |
白鳥帰るもの言はぬ国より言へぬ国へ | 宮城 | 長谷川冬虹 |
月の夜に旅する雲かな西行忌 | 千葉 | 安田勅男 |
国ゆれて桜前線たじろげり | 東京 | 櫻井滋 |
春場所やざんばら髪で優勝す | 東京 | 櫻井滋 |
月の夜は月に恋する栄螺かな | 富山 | 酒井きよみ |
大胡座かきて白山笑ふなり | 石川 | 花井淳 |
お辞儀して陽炎となる遍路かな | 愛知 | 稲垣雄二 |
たゆたへる白き花見る朝寝かな | 大阪 | 齊藤遼風 |
初花や眠りて病魔二年目に | 大分 | 竹中南行 |
《500句》自分を俯瞰して見る冷静なもう一人の自分 木下洋子
帯と一体になった表紙のブルーグレーが落ち着きがあってすてきだ。「あとがき」に、電話で出産の報を受けた父が、雪道を自転車で何度も転びながら、生まれたばかりの我が子と母になった妻のもとに駆けつけたことが書かれている。若き日の両親の喜びと我が子に対する愛情が伝わってくる。その生まれたばかりの赤ちゃんが、成長して長谷川櫂になるんだと思うと、これは自選句集プラス自分史だと思った。自筆年譜もあり、誕生から現在までの道のりがこの一冊で読み取れる。
エッセイの中に、これまでの句集を五つの時代に分けて書いてあるところがある。シンプルだが納得できる内容だ。このように自分で自分の歩みを分類するには、これまでの自分を俯瞰して見ることのできる冷静なもう一人の自分が必要だ。エッセイ全体を通して飾りのない「素」のよさを感じた。
平井照敏、飴山實に師事し、そこから自分で道を切り開いてきたことがわかる。さらに、エッセイの冒頭にある飯田龍太との交流。「私は氏の行方から、目を離さないつもりである」と句集『古志』の帯に書かれた龍太の言葉。その言葉は長谷川櫂のその後の歩みに大きな影響を与えた。そしてこれからも、龍太の言葉を心にその「行方」を示し続けることだろう。
『古志』の瑞々しさは格別だ。
春の水とは濡れてゐるみづのこと
『太陽の門』読み返すたび、思いが深まり、確信に変わる瞬間がある。
ひるがへり水に隠るる金魚かな
『自選500句』の感想、お送りください。
『長谷川櫂自選500句』の感想を右サイドの「お問い合せ」から事務局へお送りください。お名前を明記してください。選考して掲載します。
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『長谷川櫂自選500句』が4月10日(水)に発売されました。たくさんの事前予約をいただきました。サインをして版元の朔出版からお送りしますので、しばらくお待ちください。なお今後もお申し込みいただいた方にはサインをしてお送りします。
下の予約欄に①住所、郵便番号②氏名③電話番号を明記のうえ、お申し込みください。代金+送料は請求書に同封されます。お受け取り後に振り込んでください。
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内容は句集『古志』から『太陽の門』までの自選500句、エッセイ「封印」、青木亮人さんによる解説、自筆年譜、索引など。装丁は水戸部功さん。送料を含めて2700円の予定です。
《500句》「言葉の風味」と「切れ」、そして消えいくもの 長谷川冬虹
『長谷川櫂 自選五〇〇句』の味わい方はいろいろだが、刮目すべきは、「言葉の風味」と「切れ」の問題である。「風味」という言葉は、飯田龍太による第一句集「古志」の帯文にまず登場する。「穴子裂く大吟醸は冷やしあり」の飴山實の直しに関して、著者は原句と「言葉の風味は大いに異なる」と書き、俳句は「言葉の風味を醸し出す文学であるらしい」と規定する(一七五頁)。自選五〇〇句で私たちが何より味わうべきは言葉の風味である。
原句の「穴子裂いて」に対して、「穴子裂く」と直された句は大きく切れる。「穴子裂く」によって生まれた間、鋭い切れがつくり出す間、それが句の柄を大きくする。
「長谷川櫂をよむ」でも私は論じたが、「大空はきのふの虹を記憶せず」も面白い句である。虹の不在を真正面からとりあげている。言葉の力によって、言葉の力だけで、不在のものを不在のままに詩足らしめている。
あらためて繰っていくと、第一句集『古志』抄の「冬深し柱の中の濤の音」「雪空に吸はれてはまた海の音」「鷹消えて破れしままの雪の空」「遺影とは硯に映る柳かな」も、不在あるいは消えいくものを詠んでいることが興味深い。例えば「夏の闇鶴を抱へてゆくごとく」(『天球』抄)。そして「青空のはるかに夏の墓標たつ」「炎天や死者の点呼のはじまりぬ」「紅や炎天深く裂けゐたり」(『太陽の門』抄)に至る。言葉の力によって、消えいくものを在らしめ、見えないものを見る。そこに長谷川櫂の骨法がある。
古志鎌倉ズーム句会(2024年4月14日)
第一句座
•藤英樹選
【特選】
迸る富士の伏流大岡忌 わたなべかよ
橋掛り春の闇より掛りたる わたなべかよ
海女沈む地割れの続く海底へ 関根千方
春の水きらきらと詩をこぼしけり イーブン美奈子
海原に目を瞠りけり鯥五郎 わたなべかよ
戦争を背負つて死にゆく桜かな イーブン美奈子
【入選】
富士裾野芽吹きゆたかや大岡忌 仲田寛子
菫咲く会いたくなればすぐ傍に 関根千方
富士ひろく伸びて大岡信の忌 仲田寛子
花は葉にわれは正気にもどりけり 葛西美津子
少女らの頬に春風たはむれて 魚返みりん
いつの間に後期高齢葱坊主 仲田寛子
大岡忌かの日の芭蕉七部集 藤原智子
•長谷川櫂選
【特選】
教へ子に遊歩ありけり大岡忌 藤英樹
瞑想の金のまなぶた蟇 葛西美津子
蛇口から水がうたふや大岡忌 神谷宣行
花曇大岡信の忌なりけり きだりえこ
【入選】
咲きさうな花を吸はんと雀かな 木下洋子
大岡忌かの日の芭蕉七部集 藤原智子
大岡忌太平洋の波の音 藤原智子
第二句座 (席題:のどけし、囀り)
•藤英樹選
【特選】
桜花壇空に浮かびて長閑かなり 長谷川櫂
面売りの長閑な顔を並べたる 長谷川櫂
青年よ起きよ覚めよとさへずれり 園田靖彦
囀を西行と聴くや奥千本 神谷宣行
のどけしや町にあふるる人の顔 藤原智子
のどけしや言葉はどこへ老夫婦 園田靖彦
【入選】
囀やひときは高き声加へ イーブン美奈子
夢殿の夢より出でて囀れり 萬燈ゆき
天女ひるがえる水煙さへづれり 金澤道子
遺品整理終へ空つぽののどけしや 神谷宣行
外来の声もまじりて囀れる 関根千方
囀の木より一羽の飛び立ちぬ わたなべかよ
囀りは雲にむかつてひろがりつ 吉田順子
•長谷川櫂選
【特選】
囀やひときは高き声加へ イーブン美奈子
耕運機一人で動くのどけしや 澤田美那子
四人部屋のどけき枕一つづつ 葛西美津子
【入選】
抜きんでて声の澄みたるさへずりよ 園田靖彦
囀りの故郷を出でて五十年 萬燈ゆき
のどけしや桜まつりのあとの土手 藤原智子
せせらぎは水の囀り長閑かな 関根千方
のどけしや岸に蛸壺並べ干す 木下洋子
囀に混じりて青き鳥一羽 葛西美津子
囀りをたがひにかはす二羽の鳥 吉田順子
葉桜にもたれる箒のどけしや 仲田寛子
《俳句の相談》なぜ「春の蝶」というのか
【相談】
方丈の大庇より春の蝶 高野素十
「蝶」はそれだけで春の季語なのに、なぜ「春の蝶」という傍題があるのですか?
【回答】
この質問は問題の立て方が逆です。おそらく自由なはずの頭が何かに縛られているのです。
人間は小さいころから小学校、中学校と10年、20年と学校に通います。学校をはじめ教育(学習、勉強)機関は何のためにあるのか。学校や教育(学習、勉強)の目的は何か。
この質問をすると十中八九、知識を得るため、さらに知識を得ていい職業に就き、さらにはお金持ちになるためという答えが返ってきます。学校で身につけた知識で人より偉くなるためということです。
しかし誰でも自分の人生を振り返ってみればすぐわかるはずですが、知識というものは得れば得るほど、この世界(宇宙)は自分の知らないことばかりという厳然たる事実の前に立たされます。つまり自分がどんなに無知であるかということに気づかされます。
では教育(学習、勉強)の目的は何か。あたらめてこの問題に帰ってくるのですが、その目的はこの不思議に満ちた世界(宇宙)を前に誰もが「自分の頭で自由に考えることのできる人間」になるためです。長い間、学校に通って学ぶのは、「自分の頭で自由に考える」ための材料を提供しているにすぎません。
ところが、このことがしっかりとわかっていないと、教育(学習、勉強)を受ければ受けるほど、いろんな知識で頭ががんじがらめになってしまいます。こうして「いい子」ついには「社会の優等生」「俳句の優等生」ができあがります。
質問の趣旨は、「蝶」といえばそれだけで春の季語なのに、なぜ「春の蝶」というのかということでした。はじめに問題の立て方が逆であるといったのは、それはこの質問自体が俳句の考え方、俳人の考え方、歳時記の考え方に縛られているからです。
何も「蝶」だけの問題ではありません。俳句では「月」といえばそれだけで秋の季語ですが、「秋の月」ともいいます。これはなぜかと一度、俳人ではなくふつうの人になって考えてみてください。
「蝶」も「月」も一年中、存在します。ですから、ふつうの人は蝶は春の季語、月は秋の季語と考えません。そこで「蝶」も「月」もそれぞれの季節をかぶせて「春の蝶」「夏の蝶」「秋の蝶」「冬の蝶」、「春の月」「夏の月」「秋の月」「冬の月」というのです。このほうがふつうの感覚です。素十の句はこのようなふつうの感覚に根ざしたおおらかな句です。蝶は春の季語、月は味の季語と考えるのは歳時記を学び、歳時記の考え方に縛られている人だけです。
こう考えると「蝶」はそれだけで春の季語なのに、なぜ「春の蝶」というのかという疑問はそもそも生まれません。これで質問そのものが俳句の知識に縛られているということがわかるはずです。
俳句のさまざまな問題に向かうとき、自分の頭で自由に考えてください。そのためには「自分の頭は何かに縛られていないか」といつも気をつけておくのは大事なことです。
韓国、仁荷大学に植樹した山桜の写真です
ネット投句(2024年3月15日)特選
春泥を独り言ちつつトルストイ | 埼玉 | 佐藤森恵 |
地に落ちて椿の骸花のまま | 愛知 | 稲垣雄二 |
失せしものに肌の弾力蕨餅 | 京都 | 氷室茉胡 |
春寒のこころに今も難破船 | 奈良 | きだりえこ |
はくれんは白を解きて花となる | 奈良 | きだりえこ |
散り敷きてはくれん白のただなかに | 奈良 | きだりえこ |
いつまでも家に居る娘と雛祭 | 奈良 | 中野美津子 |
過ぎて知る運や不運や草の餅 | 大分 | 竹中南行 |
ネット投句(2024年2月29日)特選
容赦なく記憶白濁ゆきげかわ | 北海道 | 芳賀匙子 |
蝶が来る寄り道したりキスしたり | 千葉 | 木地隆 |
春惜しむ駿河台なる老ホテル | 東京 | 櫻井滋 |
能登の雛圧死焼死の別れあり | 富山 | 酒井きよみ |
初蝶は心ふるはせ大空へ | 岐阜 | 梅田恵美子 |
弟子にユダ居らず寝釈迦となり給ふ | 京都 | 氷室茉胡 |
五濁悪世おんひらひらと春の風 | 兵庫 | 加藤百合子 |
未来に僕はいますか明日も雪 | 兵庫 | 魚返みりん |
冴え返り洗濯ばさみ砕け散る | 奈良 | 中野美津子 |
原発に囲まれ眠る原発忌 | 奈良 | 中野美津子 |
この道や遥かなれども青き踏む | 広島 | 森恵美子 |
古志広島ズーム句会(2024年4月7日)
第一句座 | |
・矢野京子選 | |
【特選】 | |
雨降れば雨の桜を観に行かん | 原京子 |
一切は花の屏風の中にあり | 長谷川櫂 |
花ふぶきはらはら時をこぼしけり | 夏井通江 |
鬼太鼓(おんでこ)のどんどこ佐渡の桜かな | 大場梅子 |
鯖鮓の棒一本の花ぐもり | 長谷川櫂 |
【入選】 | |
ランドセルに手と足が生え一年生 | 石塚純子 |
誰が植ゑしこの一本の山桜 | 斉藤真知子 |
迂闊にも鬼に捕まる花の酒 | ももたなおよ |
西郷の陣屋のあとか諸葛菜 | 今村榾火 |
妖のものも行き交ふ夕桜 | 瑞木綾乃 |
気分よく渡る石橋杜若 | 加藤裕子 |
お茶漬に昆布ひとひら花の昼 | 神戸秀子 |
金泥をまとひて帰る鶴の群れ | 菅谷和子 |
土もたげアルプスまぶしつくしんぼ | 石塚純子 |
あ | |
・長谷川櫂選 | |
【特選】 | |
春攪乱子は白昼の手術台 | 今村榾火 |
夕さればちちはは在す花筵 | 矢田民也 |
お茶漬に昆布ひとひら花の昼 | 神戸秀子 |
あの川も一夜二夜と花筏 | 大平佳余子 |
春愁や揃ひのものは欠けやすく | 矢田民也 |
【入選】 | |
ふり向けばすでに母校よ卒業す | 神戸秀子 |
頁めくる指先春の愁ひかな | 安藤文 |
共に生き五十二年の桜かな | 大場梅子 |
如意輪寺ながめつ熱き桜湯を | 大平佳余子 |
花筏あはきひかりをのせ流る | 矢田民也 |
したたかに花に溺れん花の酒 | 矢野京子 |
嫁菜飯握つて夫を誘ひ出す | 神戸秀子 |
鬼太鼓(おんでこ)のどんどこ佐渡の桜かな | 大場梅子 |
金泥をまとひて帰る鶴の群れ | 菅谷和子 |
野の梅を手折りてかへる利休の忌 | 菅谷和子 |
花便り一日一日開きゆく | 上松美智子 |
蝌蚪いまだ蛙になると知らざりき | 斉藤真知子 |
あ | |
第二句座(席題:桜鯛、蝶生る) | |
・矢野京子選 | |
【特選】 | |
恋文が天から降りて蝶生まる | ストーン睦美 |
桜鯛漁師のうたふ祝ひ唄 | 高橋真樹子 |
捌きをる腸ぬくし桜鯛 | 斉藤真知子 |
【入選】 | |
母癒えて一箸つける桜鯛 | 菅谷和子 |
桜鯛青き涙をこぼしけり | 岡村美沙子 |
身も心も花に染まりぬ桜鯛 | 長谷川櫂 |
蝶生れてやすみやすみにとぶことよ | 菅谷和子 |
笑ひだすキャベツ畑や蝶生る | 大平佳余子 |
瀬戸内の煌めきまとひ桜鯛 | 高橋真樹子 |
あ | |
・長谷川櫂選 | |
【特選】 | |
母癒えて一箸つける桜鯛 | 菅谷和子 |
うつくしき御目いただく桜鯛 | 金田伸一 |
桜鯛長生き嘆くことなかれ | 矢野京子 |
笑ひだすキャベツ畑や蝶生る | 大平佳余子 |
捌きをる腸ぬくし桜鯛 | 斉藤真知子 |
【入選】 | |
桜鯛うろこまことに花のごと | 夏井通江 |
桜鯛子鯛孫鯛とこしなへ | 矢野京子 |
蝶生まれ沈没船の帆を目指す | 岡村美沙子 |
蝶生れてやすみやすみにとぶことよ | 菅谷和子 |
睨まれて包丁止まる桜鯛 | 斉藤真知子 |
いっさいの光纏ひて蝶生る | ももたなおよ |
わが里の花の遅さや桜鯛 | 金田伸一 |
蝶生れ直ちに宙に羽根開く | 瑞木綾乃 |
瀬戸内の煌めきまとひ桜鯛 | 高橋真樹子 |
桜鯛もらつてさばく一大事 | 夏井通江 |
花の吉野句会(2024年3月30日、31日)
3月30日
きだりえこ選 | |
【特選】 | |
法螺貝は模様で選ぶ花の山 | 木下洋子 |
へうたんをぬけ出し花の吉野山 | 村松二本 |
満開の花の句座こそ一大事 | 田村史生 |
たれか捨てたれか拾ひぬ花の杖 | 長谷川櫂 |
花一分俳句ごくらく吉野山 | 川村杳平 |
【入選】 | |
ととのへて桜花待つ吉野杉 | 花井 淳 |
明日ひらく脈打つ花の蕾かな | 西川遊歩 |
むずむずとこの世へ生るる袋角 | 村松二本 |
をろをろと花を探すや吉野山 | 飛岡光枝 |
み吉野に焦がれて今宵花の句座 | 葛西美津子 |
せりせりと虚空を濯ぐ桜かな | 玉置陽子 |
それでもなほ人を見捨てず桜かな | 玉置陽子 |
村松二本選 | |
【特選】 | |
をろをろと花を探すや吉野山 | 飛岡光枝 |
せりせりと虚空を濯ぐ桜かな | 玉置陽子 |
花の塵積もりて吉野山歳時記 | 飛岡光枝 |
花一枝腹の裂けたる備前壺 | 飛岡光枝 |
今朝息を整へてゐるさくらかな | きだりえこ |
【入選】 | |
かをらせて永遠に幸の桜かな | きだりえこ |
初花やこの木の気息確かむる | 谷村和華子 |
昼酒や花の蕾の天女魚焼く | 稲垣雄二 |
巻き上げし屏風ひらけば花の満つ | 谷村和華子 |
吉野雛杉の柾目の深々と | 飛岡光枝 |
思ひ出はかの日のままや花の宿 | 木下洋子 |
足踏みの花追ひ越して金峯山 | 田村史生 |
宮滝へ水が水押す桜かな | 葛西美津子 |
明日開く莟の声や吉野山 | 高橋 慧 |
満開の花の句座こそ一大事 | 田村史生 |
雲白し花なほ白し吉野山 | 玉置陽子 |
あ | |
長谷川櫂選 | |
【特選】 | |
花冷えやささらで洗ふ鉄の鍋 | 西川遊歩 |
花を呼ぶ法螺よ太鼓よ蔵王堂 | 田村史生 |
唇に大吟醸や花ひらく | 村松二本 |
花一輪静御前の桜かな | 高橋 慧 |
花の塵積もりて吉野山歳時記 | 飛岡光枝 |
笊に歌貼つて迎へる花の宿 | 稲垣雄二 |
花一枝腹の裂けたる備前壺 | 飛岡光枝 |
陀羅尼助頼みし人も花の塵 | 飛岡光枝 |
花の宿一つ朽ちゆく花の中 | 稲垣雄二 |
花はまだでござりますると蟇 | 田村史生 |
柿の葉鮓包みて花の鯛一片 | 稲垣雄二 |
春の宵木の香を競ふ製材所 | 田村史生 |
花びらで繕ふ障子花の宿 | 宮本みさ子 |
花は今日白の奈落といふべしや | きだりえこ |
【入選】 | |
吉野山枡は桧や花の酒 | 稲垣雄二 |
さびさびと夕鶯や吉野山 | 飛岡光枝 |
み吉野の花の句会よ二十年 | 木下洋子 |
み吉野や白く儚き桜菓子 | 木下洋子 |
象川の水まだ冷た初桜 | 藤 英樹 |
法螺貝は模様で選ぶ花の山 | 木下洋子 |
花に酔ひ花の句に酔ふ一夜かな | 三玉一郎 |
宮滝の味噌を力に木の芽和 | きだりえこ |
うたた寝の花を醒まさむ鳥の恋 | 玉置陽子 |
思い出はかの日のままや花の宿 | 木下洋子 |
初花や今年の笠の出来いかに | 村松二本 |
山国や子守山守桜守 | 西川遊歩 |
明日開く莟の声や吉野山 | 高橋 慧 |
初つばめ花の奈落をすいすいと | 飛岡光枝 |
雲白し花なほ白し吉野山 | 玉置陽子 |
奈良漬に酔うて猩々花の宴 | 飛岡光枝 |
あ | |
31日 | |
きだりえこ選 | |
【特選】 | |
よべ莟なりしがけさは花の塵 | 長谷川櫂 |
南無権現われらもいつか吉野雛 | 長谷川櫂 |
それぞれの花びらを持て朝句会 | 花井 淳 |
また一人花の渚に座りけり | 飛岡光枝 |
空を這ひ花のびやかに枝垂れをり | 西川遊歩 |
【入選】 | |
昨日来し道はもうない花の句座 | 三玉一郎 |
杉箸の軽きを土産花の旅 | 稲垣雄二 |
熊の皮虫干ししをり初桜 | 藤 英樹 |
けふのこの句座も終れば花の塵 | 三玉一郎 |
今朝ほこと開く音する山桜 | ももたなおよ |
若鮎の干物ひらけば顔ふたつ | 宮本みさ子 |
花暮れて山のいづこに忘れ杖 | 長谷川櫂 |
ともしびに眠る白蛾や花の精 | 長谷川櫂 |
煮返して花の真闇の子鮎かな | 玉置陽子 |
一草の萌え立つ吉野宮の跡 | 西川遊歩 |
風の形いくつ変へるや花吹雪 | 越智淳子 |
あ | |
村松二本 | |
【特選】 | |
あをによし奈良の金魚の水温む | 飛岡光枝 |
佐保姫は花びらの湯をあふれしめ | 玉置陽子 |
南無権現われらもいつか吉野雛 | 長谷川櫂 |
花浴びて我も木花咲耶姫 | 玉置陽子 |
【入選】 | |
けふのこの句座も終れば花の塵 | 三玉一郎 |
目鼻なき木端仏も花のいろ | 玉置陽子 |
ともしびに眠る白蛾や花の精 | 長谷川櫂 |
吉野雛花の屏風にふぶきけり | 飛岡光枝 |
葛晒す桶も古りたり山桜 | 葛西美津子 |
鶯や天龍の歌聞かせてよ | きだりえこ |
あ | |
長谷川櫂 | |
【特選】 | |
佐保姫の鼾が揺らす吉野建 | 稲垣雄二 |
花浴びて我も木花咲耶姫 | 玉置陽子 |
葛晒す樽も古りたり山桜 | 葛西美津子 |
投げ入れて大甕に花ふぶきけり | 葛西美津子 |
黒髪を花の枕に沈めけり | 飛岡光枝 |
【入選】 | |
墨の香や花の句一句二十人 | ももたなおよ |
酢で締めて花にくもるや鯖一片 | 玉置陽子 |
春愁や晒して白き桜菓子 | 飛岡光枝 |
けふのこの句座も終れば花の塵 | 三玉一郎 |
空をゆく役行者か花ふぶき | 飛岡光枝 |
墨香る花の百句や吉野紙 | 飛岡光枝 |
み吉野の思へ出ひらく桜漬 | 木下洋子 |
咲きそめし幸の桜十二歳 | 木下洋子 |
のどけしや鬼が筆とる吉野紙 | きだりえこ |
奥千本かの日のままに花の杖 | 木下洋子 |
朝桜吉野の町の静けさよ | 上松美智子 |
一晩で一分開きぬ山桜 | 木下洋子 |
賽銭のごとんと落つる遅日かな | 村松二本 |