ネット投句(2023年5月31日)選句と選評
【特選】
蟻一匹夏を背負ひて駆けており 東京 岡田定
六月の波がぶつかる防波堤 東京 楠原正光
草いきれハーレイで来て野良仕事 東京 櫻井滋
縮みたるからだ五センチ更衣 石川 松川まさみ
船揺れて夏の匂のメコン川 大阪 木下洋子
勘だけで渡る世間や古茶新茶 奈良 きだりえこ
眼で愛でてゆっくり口にさくらんぼ 広島 鈴木榮子
吾にもまた目高ほどなる命あり 長崎 川辺酸模
真つ青な夏の日終はる浜辺かな 大分 山本桃潤
紫陽花の黙の重みといふべしや 大分 竹中南行
【入選】
草むしり地球の表皮剥ぐごとく 北海道 村田鈴音
出来しなの鉢こんと鳴る五月かな 北海道 芳賀匙子
干草の束を積み上ぐ腕かな 北海道 柳一斉
熊ん蜂音もなく飛ぶ夏めく日 青森 清水俊夫
下校の児ら阿武隈河畔柿若葉 宮城 長谷川冬虹
がりがりと削る鰹節朝曇り 茨城 袖山富美江
豆飯や窓いつぱいに開けて食ぶ 埼玉 佐藤森恵
青嵐飯森山を揺るがせて 千葉 若土裕子
点滅の眠りをさそふ蛍かご 千葉 若土裕子
明易の宙へささめく鳥の声 千葉 池田祥子
田一枚まかされし子の田植えかな 千葉 麻生十三
雲の峰逝きて還らぬ戦かな 千葉 麻生十三
初夏の雨に眩しき草のいろ 東京 神谷宣行
転職し得意な仕事柿若葉 東京 長尾貴代
燕の子真一文字の口五つ 東京 畠山奈於
初蝉や妻なきあとの荘の日々 東京 櫻井滋
乳色の薔薇こそ薔薇の香りなり 神奈川 越智淳子
音や香や芝刈る人は見えずとも 神奈川 越智淳子
野茨や咲くも盛大散るもまた 神奈川 遠藤初惠
ひるがへる波濤にサーファー紛れたり 神奈川 三浦イシ子
再びのわが青春を夏帽子 神奈川 三浦イシ子
孑孑のやうな人生米を炊く 神奈川 三玉一郎
端つこの痩せつぽちなる燕の子 神奈川 松井恭子
ヒマラヤ杉の全形見ゆる距離涼し 神奈川 中丸佳音
九十翁の話面白麦の秋 神奈川 中丸佳音
天井の水陽炎や夏めきぬ 神奈川 島敏
顔よりも大きな笑顔夏の風 神奈川 那珂侑子
童心にかえつて頼むメロンソーダ 新潟 安藤文
空色のあつぱつぱ着て若き母 新潟 安藤文
芍薬や妻の怒りのおさまらず 新潟 安藤文
行き倒れあるもむかしや大夏野 富山 酒井きよみ
かそけしや朝虹海へ剥落す 石川 松川まさみ
かすむ目にテレビ桟敷や夏相撲 長野 金田伸一
鈴生りを揺すってみたきゆすらうめ 岐阜 三好政子
波音や枕の堅き遍路宿 岐阜 梅田恵美子
アカシアの蜂蜜うまし蜂になる 岐阜 古田之子
老人にそこそこの物冷蔵庫 静岡 湯浅菊子
花栗の匂ひの中に村は老ゆ 愛知 稲垣雄二
米原で日の入りとなり麦の秋 京都 諏訪いほり
豌豆の笑うてをりぬ箸の先 大阪 安藤久美
金色の寺が聳ゆる夏の空 大阪 木下洋子
茫々の夏野の中に朱雀門 大阪 澤田美那子
朱雀門くぐればはてしなき夏野 大阪 澤田美那子
反戦の思は何処麦の秋 大阪 齊藤遼風
ぬるぬるの田圃に入りて田植かな 兵庫 天野ミチ
逆縁の墓に幾たび麦の秋 兵庫 藤岡美恵子
紅も黒もありけり桜の実 兵庫 福田光博
街灯に輝く路面梅雨盛り 兵庫 髙見正樹
魂の世話ねんごろに端居かな 奈良 きだりえこ
柚子の花ふれれば棘の容赦なく 奈良 中野美津子
豆飯や暫し語らふ爺と婆 奈良 柏木博
路地裏や夜汽車のごとき夏の宵 奈良 柏木博
臥しをれば刻の澱みて水中花 岡山 北村和枝
九条や蛍となりて帰る人 大分 山本桃潤
うすれゆく夜毎の病苦初夏の朝 大分 竹中南行
梅雨近し治癒を焦るなあせるなよ 大分 竹中南行