ネット投句(2023年5月15日)選句と選評
【特選】
祖母の手の爪も茶色に新茶もむ 千葉 若土裕子
田舎には田舎の闇や朔太郎忌 新潟 安藤文
人の手の田植なつかし花あやめ 富山 酒井きよみ
長野から早乙女来たり大田植 富山 酒井きよみ
走り茶を分けて近所を悦ばす 長野 金田伸一
山蕗や刻めばしぶく春の山 岐阜 梅田恵美子
金剛の水の力よ山滴る 静岡 湯浅菊子
山国はやうやう花の五月かな 京都 諏訪いほり
兜煮の色もさすがや桜鯛 大阪 安藤久美
コロナ後の新たな時代夏予感 兵庫 加藤百合子
生き生きて茅花流しに吹かれ立つ 長崎 ももたなおよ
きみのなき歌仙さびしや五月来る 長崎 川辺酸模
椅子出して黄金週間庭にあり 大分 山本桃潤
なだめつつ宿痾とともに風薫る 大分 竹中南行
【入選】
芍薬の堪へ切れずに咲き尽くし 北海道 村田鈴音
山と剥く蕗のすじ爪黒くして 北海道 芳賀匙子
春昼の床屋の椅子にまどろみて 北海道 柳一斉
赤き屋根濤の白さや夏の風 青森 清水俊夫
夏場所や立ち合い一気に押し出せり 宮城 長谷川冬虹
ストローをぐるぐる回しソーダー水 茨城 袖山富美江
ハナミズキ墓石の文字読み歩く 埼玉 佐藤森恵
さや豆の筋の残れる夕餉かな 千葉 芦野アキミ
佳きことの起こる予感や衣更 千葉 若土裕子
山肌の流れ落ちるか藤の花 千葉 春藤かづ子
穴子飯見上る先に斎き島 千葉 青山果楠
一面の植田畦道一人行く 千葉 谷口正人
筑波嶺に雲のかかるや海芋咲き 千葉 池田祥子
行く春やいずれは行旅死亡人 千葉 麻生十三
海開き櫓船の船頭老いにけり 千葉 木地隆
歯を抜けば微笑むやうに春の雲 東京 岡田定
金婚や宝の妻に薔薇ささぐ 東京 神谷宣行
母はいま白寿の恋や夏来る 東京 神谷宣行
新緑の樹間をわたる尾長かな 東京 楠原正光
花園か宇宙か海月水族館 東京 畠山奈於
老散歩白山吹の好もしく 東京 堀越としの
冷酒や憲法談議止めちまへ 東京 櫻井滋
せんだんの香りただよふ夜来たり 神奈川 伊藤靖子
土佐まねて大皿に盛れ初鰹 神奈川 越智淳子
五月雨やけふ静かなる日曜日 神奈川 越智淳子
山内に滴る緑墨を磨る 神奈川 遠藤初惠
恥じらひてはじけ初めたる四葩かな 神奈川 三浦イシ子
本業は山伏なりき茄子を植う 神奈川 松井恭子
ただ寒き地震る八十八夜かな 神奈川 植木彩由
佳き人の訃の相つぐよぼうたんよ 神奈川 中丸佳音
夏立ちぬ潮の頭に乗る小舟 神奈川 島敏
花冷えやのけぞつてゐる抱つこ紐 神奈川 藤澤迪夫
夏座敷畳に椅子とテーブルと 神奈川 那珂侑子
風に乗る佐久の草笛何処まで 神奈川 片山ひろし
粽解く笹三枚と菅一本 新潟 高橋慧
村老いて休耕八町夏の雲 富山 酒井きよみ
卯の花や志功の女人踊り出づ 石川 花井淳
筍掘る祖父の手ぬぐひよれよれに 石川 密田妖子
リュック背に万歩歩まん老の夏 長野 金田伸一
ツピツピと老いを励ます四十雀 岐阜 三好政子
大寺に市のにぎはひ五月かな 岐阜 梅田恵美子
日だまりや足の踏み場もなく蕨 岐阜 梅田恵美子
きゆうじうきゆうひやあくと言ふ声菖蒲の湯 愛知 臼杵政治
眉の泥そのまま筍売り来る 愛知 臼杵政治
母の日や母の三代揃ふ家 愛知 宗石みずえ
年老いて王冠重し柏餅 京都 諏訪いほり
子の愚痴を聞くのも母の日の努め 京都 氷室茉胡
汗の子の悔し涙をこらへをり 大阪 安藤久美
こどもの日金平糖は恋の色 大阪 齊藤遼風
母の日の母の一字の軽きこと 大阪 齊藤遼風
竹皮を脱ぐ幾重にも幾重にも 兵庫 吉安とも子
すぐできる冷索麺にガラス鉢 兵庫 天野ミチ
登る壁手足の長き雨蛙 兵庫 髙見正樹
山笑ふ三年ぶりの母笑ふ 奈良 中野美津子
練供養かぶりもの観て泣く子かな 奈良 中野美津子
飯屋出で陋巷帰る荷風の忌 奈良 柏木博
芳しき大地の息吹アスパラガス 和歌山 玉置陽子
更衣ぎつくり腰に阻まれて 岡山 北村和枝
死に向かふ人の手記読む緑夜かな 長崎 ももたなおよ
夏めきてピンクバットの三塁打 長崎 ももたなおよ
玄海の烏賊透きとほる五月かな 長崎 川辺酸模
赤子より劣る己や更衣 長崎 川辺酸模
点滴のしんと煌めく立夏かな 大分 竹中南行