【特選】
旅立ちの終着春の上野駅 青森 清水俊夫
草原に戦車かげろふウクライナ 神奈川 土屋春樹
蟻の来て蝶の終はりを見てをりぬ 愛知 稲垣雄二
夏帽子自由の人でありしかな 大阪 木下洋子
落椿ほどにがつくりしなくとも 兵庫 藤岡美恵子
大いなる春の沈黙黒茶碗 奈良 きだりえこ
行く春の後ろ姿の仏かな 奈良 きだりえこ
花冷や一句のための墨摩らむ 和歌山 玉置陽子
つばくらめ恋も墓標も雲の中 和歌山 玉置陽子
轟々と福島洗へ夏の海 大分 山本桃潤
若鮎の追ひつ追はれつ光の矢 大分 竹中南行
【入選】
木の芽時アボカドの種捨てがたし 北海道 村田鈴音
言い訳の嘘と知りつつ花は葉に 北海道 村田鈴音
そのうちと忘れほうけし土筆かな 北海道 芳賀匙子
つぼみとは耳をすましてゐる桜 北海道 芳賀匙子
人間に言葉てふ枷山笑ふ 北海道 柳一斉
蝌蚪うごき現れ出づる泥煙 北海道 柳一斉
惜しげなく虹弾けさせしやぼん玉 青森 清水俊夫
雪形は種蒔うさぎ句作せん 宮城 長谷川冬虹
蚯蚓にも食はせてやらうわが骸 宮城 長谷川冬虹
がしやがしやと洗う子の靴メーデー歌 茨城 袖山富美江
風光る大人のための金曜日 茨城 袖山富美江
海へ出て裸でざぶり夏遍路 埼玉 園田靖彦
母の日や膝下離れて五十年 埼玉 園田靖彦
推し開くま白き命牡丹咲く 埼玉 上田雅子
もう少し話したき道リラの花 千葉 菊地原弘美
新しき教科書の香や春の朝 千葉 谷口正人
たんぽぽの綿毛ひと吹き春ゆきぬ 千葉 谷口正人
山吹や川になじみの洗濯石 千葉 池田祥子
後先に燕の囃す代掻機 千葉 池田祥子
春日傘忘れられたる形見かな 千葉 麻生十三
この春を一期と思い送りけり 千葉 麻生十三
歯ざはりにしみじみ日本筍飯 千葉 木地隆
半島に放牧の牛夏来る 東京 楠原正光
抱っこして孫の手に汲む甘茶かな 東京 堀越としの
雲遊ぶ水面に柳楽しそう 東京 堀越としの
万緑や三年ぶんの深呼吸 東京 櫻井滋
どの薔薇の芽も新しく愛おしく 神奈川 臼杵政治
スズランを握りて探す小花瓶 神奈川 越智淳子
霾や都庁ゆつくり墓標めく 神奈川 植木彩由
岬まで白花小花夏が来る 神奈川 中丸佳音
遅霜や大ファンまわるお茶畑 神奈川 土屋春樹
菜の花や潮の香りと混じり合ふ 神奈川 土屋春樹
春の川みずとひかりが戯れて 神奈川 島敏
囀りや夢のつじつま合わぬまま 神奈川 藤澤迪夫
夏近し今さら外せぬマスクかな 神奈川 那珂侑子
物を云ふ口なきがよし竹夫人 神奈川 片山ひろし
湯上りの身体をあふぐ団扇かな 神奈川 片山ひろし
お地蔵に造花挿しある薄暑かな 富山 酒井きよみ
荒波の能登の栄螺の角自慢 石川 花井淳
ランチメニュー若葉の幹に立てかけて 石川 松川まさみ
ひとしずくひしほ垂らして焼栄螺 岐阜 梅田恵美子
三年の巣ごもり後や更衣 愛知 宗石みずえ
二人して涙流せし桜かな 愛知 青沼尾燈子
飛花落花城に米蔵銃の蔵 京都 氷室茉胡
筍飯吾子の伸びしろ疑はず 京都 氷室茉胡
今しがたまで花あびてをられしが 大阪 安藤久美
水尾は柚の花咲いてゐるころか 大阪 木下洋子
たつぷりのお茶でいただく柏餅 大阪 澤田美那子
三年の長き朝寝や昼の酒 大阪 齊藤遼風
金色の光ふるえて木の芽張る 兵庫 加藤百合子
春眠や覚めてもの喰ふものうまし 兵庫 天野ミチ
葉桜に光とどまる雨上がり 奈良 中野美津子
同じ木に同じ顔して目白来る 奈良 中野美津子
なつかしき我と会ひたり花の下 和歌山 玉置陽子
味噌汁の春菊の香に目をとぢむ 岡山 北村和枝
うららかや薬の袋似合はざる 岡山 北村和枝
剥がされて夢のさなかの鮑かな 岡山 齋藤嘉子
酔うほどに恩師偲びぬ花の宴 広島 鈴木榮子
まきさんの句を読みかえし春惜しむ 長崎 ももたなおよ
惜春やまきさんのこゑもう聞けぬ 長崎 ももたなおよ
逝く春の磯に屈むは君が影 長崎 ももたなおよ
な鳴きそ鳴けば墜ちるぞ巣の燕 長崎 川辺酸模
行く春や眉雪の守るジャズ喫茶 長崎 川辺酸模
草餅や子供九人生みし祖母 大分 山本桃潤
まほろばの国は何処に青き踏む 大分 竹中南行
陽炎をつかまんとする一生にて 大分 竹中南行
カテゴリーアーカイブ: ネット投句
ネット投句(2023年4月15日)選句と選評
【特選】
隻眼をまた撫でてゐる遅日かな 愛知 青沼尾燈子
朝に一花夕に一花や桜漬 愛知 稲垣雄二
翻す水音重く春の鯉 奈良 きだりえこ
花の旅母亡きことの今更に 和歌山 玉置陽子
ここにまた恋の証の落し角 岡山 齋藤嘉子
剥がされて夢のさなかの栄螺かな 岡山 齋藤嘉子
もうゐないあなたに会ひし朝寝かな 長崎 川辺酸模
【入選】
天辺の閂外れ黄砂吹く 北海道 村田美鈴
まぼろしの駱駝が通るよなぐもり 北海道 芳賀匙子
片減りの通勤靴や鳥曇り 北海道 柳一斉
老女らの見上げる度のあっさくら 青森 清水俊夫
(納骨)一切は土に還らん花の寺 宮城 長谷川冬虹
日曜日鍋いつぱいに春キャベツ 宮城 長谷川冬虹
湯に入れて花菜の緑目覚めけり 埼玉 上田雅子
突然の兄との別れ春の山 千葉 若土裕子
入社式地平線まで飛行機雲 東京 岡田定
花終わりからすのえんどう覆ふ庭 神奈川 伊藤靖子
桜より解き放たれし吉野かな 神奈川 三玉一郎
花の山下りてきてまだ夢の中 神奈川 三玉一郎
九十のひとり暮らしや雛あられ 神奈川 那珂侑子
日輪の黄のあはあはと霾ぐもり 神奈川 片山ひろし
ミサイルの警戒警報霾れり 新潟 安藤文
しめやかにサティを弾く母花の昼 新潟 安藤文
寿美さんも桜花壇も花吹雪 新潟 高橋慧
浅間山黄砂纏へりわれもまた 東京 堀越としの
白山の水の精気に独活晒す 東京 神谷宣行
五指開くごとくに匂ひ辛夷咲く 長野 金田伸一
共白髪ともに大輪桜漬 愛知 稲垣雄二
今開く妻の大輪桜漬 愛知 稲垣雄二
春愁やちさき節ある竹の箸 京都 諏訪いほり
春爛漫孫と一緒にトランポリン 京都 氷室茉胡
心には折々のうた大岡忌 大阪 木下洋子
春風に吹かれてゆかん飛鳥寺 大阪 木下洋子
雪折れの初花仏間明るうす 兵庫 藤岡美恵子
この道に死者るいるいや花水木 奈良 柏木博
遅日かな点滅灯の点るビル 兵庫 髙見正樹
永き日や夕づくまでの畦歩き 香川 曽根崇
けふもまた兵士が死んで母子草 長崎 ももたなおよ
ネット投句年間賞(春)は柳さん
・年間賞
ずり落ちてこらへをるなり屋根の雪 北海道 柳一斉
【作者のコメント】
まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。櫂先生のネット句会に投句し続けた甲斐がありました。これからも精進を続けて投句したいと思います。櫂先生、ありがとうございました。
・次点
草餅やもはや返せぬ母の恩 神奈川 三浦イシ子
無一物なれど寿ぐ雑煮かな 千葉 麻生十三
・入選
寒餅や豆の抜けたる穴覗く 石川 密田妖子
母象の足の鉄球春遅し 京都 吉田千恵子
雪晴間一斉に出て雪を掻く 新潟 高橋慧
生と死を静かに分かつ白障子 愛知 稲垣雄二
われもまた人の形のおぼろかな 神奈川 三玉一郎
雛飾る指の先まで老いにけり 大阪 澤田美那子
春一番海と揉み合ふ大河かな 大分 竹中南行
子よりも先に泣きけり卒業歌 和歌山 玉置陽子
泥の穴指でまさぐる田螺取り 京都 佐々木まき
とりどりの自由ゆれをりチューリップ 長崎 川辺酸模
*歴代の年間賞
【2023年春】ずり落ちてこらへをるなり屋根の雪 柳一斉
【2022年冬】 歩み来る年は一人で歩む年 花井 淳
【2022年秋】 現世の唯一の重石原爆忌 竹中南行
【2022年夏】 七十余年隻眼で見る春の山 青沼尾燈子
【2022年春】 東京駅奥の奥まで春愁 安藤 文
【2021年冬】 綿虫の無より涌き出てさまよへり 夏井通江
【2021年秋】 いさかひし昔恥づかし墓洗ふ 川辺酸模
【2021年夏】 この初夏の素晴らしき日に何もせず 森徳典
【2021年春】 海流のぶつかる響き卒業歌 渡辺遊太
【2020年Ⅳ期】 初場所や発止と組んで花の色 齋藤嘉子
【2020年Ⅲ期】 たいくつはのつぺらぼうやマスクして 上田雅子
【2020年Ⅱ期】 したたかに生きてしわしわソーダ水 百田直代
【2020年Ⅰ期】 思想こそ国の柱よ竜の玉 山本桃潤
【2019年Ⅳ期】 さつきまで父母ゐた畳冬日差 渡辺遊太
【2019年Ⅲ期】 花木槿宇宙のすみに小さき家 夏井通江
【2019年Ⅱ期】 薩摩富士海より立ちて明易し 池田祥子
【2019年Ⅰ期】 即興の一生だった紅薔薇 柚木紀子
【2018年Ⅳ期 ちらちらと地球の骨の見えて冬 渡辺遊太
【2018年Ⅲ期】 ひるがえる奥は真暗き夏暖簾 長井亜紀
【2018年Ⅱ期】 萎えし手の母の手柄の豆ご飯 藤岡美惠子
【2018年Ⅰ期】 ひとつづつ仏の顔や種浸し 喜田りえこ
【2017年Ⅳ期】 ひきずつて親の思ひの千歳飴 澤田美那子
【2017年Ⅲ期】 海の底空の果てから土用波 越智淳子
【2017年Ⅱ期】 骨壺のそつと置かれる春の中 西川遊歩
【2017年Ⅰ期】 故郷の山に似た山餅を焼く 山本桃潤
【2016年後期】 水にあそび水にねむるや心太 長井亜紀
【2016年前期】 表より裏より風の来る団扇 井上じろ
【2015年後期】 秋といふ大きなうしろすがたかな 三玉一郎
【2015年前期】 春の野はまだかりぬひのひかりかな 松本邦吉
【2014年後期】 水打ちてみえざる炎しづめけり 岡崎陽市
【2014年前期】 初春がひとりの椀に来たりけり 加藤百合子
【2013年後期】 柳眉逆立て長き黒髪洗ひけり 佐々木まき
【2013年前期】 へそに置く団扇一本昼寝かな 神谷宣行
【2012年】 花からすうり惑星いつかまた集ふ 柚木紀子
ネット投句(2023年3月31日)選句と選評
【特選】
泥の穴指でまさぐる田螺取り 京都 佐々木まき
とりどりの自由ゆれをりチューリップ 長崎 川辺酸模
【入選】
春眠しマスクの中に欠伸して 北海道 村田鈴音
わたしからわたしがはなれ花の中 北海道 芳賀匙子
春風をあやつりあやつり一輪車 北海道 柳一斉
錆深きロシアの船や春の雪 北海道 柳一斉
若き日の父母思ふ桜かな 宮城 長谷川冬虹
春の夜母の爪切る納棺師 千葉 麻生十三
吾の肩に風に抗ひ花ひとつ 東京 岡田定
病ゆえがん検できず桜散る 東京 長尾貴代
今もまだ娘ライバル白寿の春 東京 長尾貴代
春の夜やスカイツリーがぼんやりと 東京 楠原正光
おさなごの小さき手で追ふ桜かな 東京 楠原正光
黒もじをそーっと入れて桜餅 東京 堀越としの
コロナ明け顔一面の花吹雪 東京 櫻井滋
花の屏風ひろげたるごと我が窓辺 神奈川 越智淳子
潮から上がる網真つ赤桜えび 神奈川 越智淳子
天下とると手相見言ったが春定年 神奈川 遠藤初惠
花冷えの廊下はるばる湯殿まで 神奈川 遠藤初惠
病床の花びんに一枝さくら咲く 神奈川 三浦イシ子
花ふぶくたびにあなたが遠くなる 神奈川 三玉一郎
こころからこころへふぶく桜かな 神奈川 三玉一郎
風光る母の杖先足の先 神奈川 植木彩由
晩年のかくも待たるる桜かな 神奈川 中丸佳音
たかだかと空押しあぐる辛夷かな 神奈川 島敏
チューリップ花びらとぢて雨籠 神奈川 那珂侑子
陽炎の果てに我逝く国あらむ 神奈川 片山ひろし
春炬燵己がいびきに目覚めけり 新潟 安藤文
花の空黄金の国なりし佐渡 新潟 安藤文
声溢るる学校田の田植かな 新潟 高橋慧
溝浚へ若者一人初参加 富山 酒井きよみ
朧夜の花や縄文火焔土器 石川 松川まさみ
賓頭盧の御眼いく度も撫でて春 長野 金田伸一
ほの見えて梅としらるる香りかな 長野 金田伸一
風呂の中体真白し春の月 岐阜 夏井通江
物は捨て人を失ひ春深し 愛知 宗石みずえ
三つ目は二人で分くる桜餅 愛知 青沼尾燈子
夫入院春爛漫の只中に 京都 佐々木まき
花辛夷夫を見送る手術室 京都 佐々木まき
久に逢ふ人も加はる花見かな 京都 氷室茉胡
花の闇さくらの奥に鬼ねむる 大阪 安藤久美
ぼた餅を持ちて覗くや辻御堂 大阪 山中紅萼
三年間のマスク外して卒業す 大阪 木下洋子
花時や瞑目深き大文字 大阪 澤田美那子
巡礼の春すれちがふ影法師 兵庫 加藤百合子
今日からは日ごと通はん花一分 兵庫 加藤百合子
永き日を余さず使ひ切りにけり 岡山 北村和枝
アレクサと喋る幼子のどけしや 岡山 北村和枝
もんぺはき花の行脚の一世かな 岡山 齋藤嘉子
春風や踝見ゆるハイヒール 広島 鈴木榮子
雨上がり春がきらきら植物園 長崎 ももたなおよ
花すみれいつか一人のふたりかな 長崎 川辺酸模
都井岬太平洋に青き踏む 大分 山本桃潤
鵜と比ぶ息の長さよ春の海 大分 山本桃潤
白魚の喉過ぐとき生生し 大分 山本桃潤
この島を洗ふ大潮山笑ふ 大分 竹中南行
ネット投句(2023年3月15日)選句と選評
【特選】
紀ノ国の四方さんざめく木の芽かな 和歌山 玉置陽子
子よりも先に泣きけり卒業歌 和歌山 玉置陽子
【入選】
踏み分けて犬のひつぱる春の泥 北海道 芳賀匙子
群青の海や流氷あとずさり 北海道 柳一斉
心に花咲かせ続けよ卒業歌 宮城 長谷川冬虹
啓蟄や鍋の蜆もうごきをり 埼玉 佐藤森恵
山ひとつ動くが如く春一番 千葉 春藤かづ子
海底に元寇の船磯遊び 千葉 池田祥子
朝寝してつかぬ間に入る涅槃かな 千葉 麻生十三
遺品みな夢の残骸春霞 東京 神谷宣行
一瞬をよぎる尾羽や燕来る 神奈川 越智淳子
春めくと汝も旅人汽車のなか 神奈川 三浦イシ子
友達の顔知らぬまま卒業す 神奈川 三玉一郎
春寒し書に飽いて汲む寝酒かな 神奈川 藤澤迪夫
歩くたび音のして床あたたかし 神奈川 那珂侑子
鷹化して鳩の飛び立つ建長寺 神奈川 片山ひろし
園児折るかたちいろいろ紙雛 神奈川 片山ひろし
春愁の顔ふたつゆく犬と我 新潟 安藤文
むにやむにやと呪文唱へて春の水 長野 金田伸一
新幹線力の限り芽ぶきけり 岐阜 夏井通江
啓蟄や草地の穴の数知れず 岐阜 古田之子
老猿のしろがねの魂冬襖 岐阜 梅田恵美子
風車じいじも走らされてをり 京都 氷室茉胡
何もかもスマホに尋ね春の風 京都 氷室茉胡
手探りの親でありしが卒園す 大阪 安藤久美
息白く阪神淡路震災忌 大阪 木下洋子
戦争の昔語らん春夕焼 大阪 澤田美那子
花粉症コロナのマスク役立てて 兵庫 天野ミチ
花の句に今日はどつぷり西行忌 兵庫 藤岡美恵子
ポチ逝きてここらあたりか梅花 兵庫 福田光博
春の潮錨泊船の変わる向き 兵庫 髙見正樹
天辺はもう満開の枝垂梅 奈良 きだりえこ
花桃の欠伸している午後三時 奈良 きだりえこ
雛飾り一人で眺めまた仕舞ふ 奈良 中野美津子
故郷に父母おはし日々春彼岸 広島 鈴木榮子
干潟はや島とつながる夕べかな 香川 曽根崇
鶯餅花粉まみれの貌をして 長崎 ももたなおよ
五十の群れ八十の群れ鶴帰る 長崎 ももたなおよ
咲き満ちて白木蓮すでに翳りあり 長崎 川辺酸模
老い先の道のり知らずいぬふぐり 大分 竹中南行
ネット投句(2023年2月28日)選句と選評
【特選】
一対の流し雛にもある別れ 京都 氷室茉胡
名を付けて雛を流す少女かな 京都 氷室茉胡
金色のまま流れゆく雛かな 大阪 安藤久美
雛飾る指の先まで老いにけり 大阪 澤田美那子
春一番海と揉み合ふ大河かな 大分 竹中南行
【入選】
忘れ雪合否待ちつつ荷造りす 北海道 村田鈴音
野放図にからすとからす雪解川 北海道 芳賀匙子
春といふおそろしき罠冴返る 北海道 芳賀匙子
人界に男と女荷風の忌 北海道 柳一斉
春浅き街を行く風重たげに 青森 清水俊夫
大海を漂ふてゐる朝寝かな 宮城 長谷川冬虹
紅梅の明日には開く気配して 茨城 袖山富美江
ふるさとを捨てた男に春の月 埼玉 園田靖彦
探梅や昨夜の雪を踏みながら 千葉 若土裕子
梅東風に介護離れて遊びけり 千葉 池田祥子
ゆっくりと待つ回復や水温む 千葉 池田祥子
絵具箱父の遺せし春の色 千葉 麻生十三
麦菜飯貧しき戦後思ふかな 千葉 麻生十三
ジャケットが風に膨らむ春来たり 東京 岡田定
夢大き若者であれ初蝶来 東京 神谷宣行
生きる力俳句のおかげ春来る 東京 長尾貴代
麗しや五十の歳に買ひし雛 神奈川 越智淳子
雛飾る女に生まれ老い楽し 神奈川 越智淳子
蕗味噌は習はず終い母逝けり 神奈川 遠藤初惠
磯遊とんびの影とあそびけり 神奈川 三玉一郎
後ろ手にレッスンバッグ猫柳 神奈川 植木彩由
雪解けや渦巻流る多摩源流 神奈川 土屋春樹
朝寝してとほき汽笛を夢うつつ 神奈川 島敏
花びらの蝶ともならず日に遊ぶ 神奈川 島敏
足取りのまだ危なげな春の蟻 神奈川 片山ひろし
梅一輪咲く度躍るこころかな 新潟 安藤文
戦乱の夜にしんかんと芽吹きけり 新潟 安藤文
水送る若狭は残る雪の中 石川 花井淳
享保雛成巽閣に照りたまふ 石川 密田妖子
雛哀し積まれて和歌の浦を行く 石川 密田妖子
春の雪止むな止むなと一詩人 長野 金田伸一
まさか掻くとは思はざり春の雪 長野 金田伸一
古雛魂あるごとく恐ろしや 愛知 稲垣雄二
軽トラの檻の種豚牡丹雪 京都 吉田千恵子
かく生きて白魚丼とはありがたき 京都 佐々木まき
生飯台に雛のあられを二三粒 京都 諏訪いほり
穴を出る母熊は子をうながして 大阪 澤田美那子
餅まきも昔の事よ午祭 兵庫 吉安とも子
かまきりの卵拾ふや春一番 兵庫 藤岡美恵子
亀石のずしりと重し春の泥 奈良 きだりえこ
しばらくは花の仏間や雛飾る 奈良 きだりえこ
子等の声無き我が家にも雛飾 奈良 きだりえこ
凍潮のゆるび初めたり烏賊の胴 和歌山 玉置陽子
あのころの飢餓知り尽す吊し雛 和歌山 玉置陽子
ヘルパーの来てくれる日やあたたかし 岡山 北村和枝
どの子にも立春大吉の光あれ 岡山 齋藤嘉子
伐採と知らず芽吹きぬ三千本 広島 鈴木榮子
雪山を一歩一歩や熊を追ふ 大分 山本桃潤
我が眼ばかり動くや大雪野 大分 山本桃潤
三尺の童のこころ春の水 大分 竹中南行
ネット投句(2023年2月15日)選句と選評
【特選】
草餅やもはや返せぬ母の恩 神奈川 三浦イシ子
われもまた人の形のおぼろかな 神奈川 三玉一郎
【入選】
鬼やらひ紙の面つけ出番待つ 北海道 村田鈴音
一切が魚氷に上る青さかな 北海道 芳賀匙子
春寒の卵一個の日曜日 北海道 芳賀匙子
魚氷に上り山々は肩を組み 北海道 柳一斉
立春の雲の誘ふ旅心 北海道 柳一斉
凧揚げる空の深さを手に覚え 青森 清水俊夫
霜柱燃ゆるがごとく崩れをり 宮城 長谷川冬虹
春の日や倉庫の奥に差す光 茨城 袖山富美江
ほつこりと糞の置かれり春の土 埼玉 佐藤森恵
千代紙で作る封筒ものの種 千葉 菊地原弘美
歳月や崩れし畦につくし摘む 千葉 若土裕子
子の心知らずに逝かせ梅香り 千葉 春藤かづ子
裸木に赤い小さな手袋ひとつ 千葉 青山果楠
ウクライナ春泥に倦む若き兵 千葉 谷口正人
春立つや夫歩行器の軽き音 千葉 池田祥子
川筋の変はりし堤蕗の薹 千葉 池田祥子
ホーム端一人ぽっちの日向ぼこ 東京 岡田定
取れたての一枚づつや若布干す 東京 楠原正光
襟立ててバスの影待つ余寒かな 東京 堀越としの
紅白の梅奔放に日曜日 東京 堀越としの
卒業の別れを惜しむマスクかな 東京 櫻井滋
内裏雛小さきをしのばせ入所の荷 神奈川 遠藤初惠
父の座に父ゐるごとし春炬燵 神奈川 松井恭子
寒すずめ今朝も餌待ち並びおり 神奈川 土屋春樹
梅一輪湯気立つやうに咲きにけり 神奈川 島敏
雪やみて鶸の群れ湧く青空よ 神奈川 湯浅菊子
満天の星屑のなか冬の富士 神奈川 藤澤迪夫
手水舎の柄杓の新た梅ひらく 神奈川 藤澤迪夫
バレンタインデー母の情けのチョコ一つ 新潟 安藤文
水平に雪原垂直に杉 新潟 高橋慧
雪籠りこの世を覗く窓一つ 富山 酒井きよみ
織り上がる紬一反春の嶺 石川 花井淳
一と日降り一と日積みけり春の雪 長野 金田伸一
春寒やガラスの器粉々に 長野 大島一馬
春の灯と車内の映る車窓かな 岐阜 夏井通江
我死して後の雛の行きどころ 岐阜 夏井通江
風花や長き老後を茫茫と 岐阜 三好政子
湯たんぽで一生終えし母なりき 愛知 稲垣雄二
亀泣くや病に逝きし友遥か 愛知 青沼尾燈子
ゴム伸びし靴下を干し木の芽晴 京都 吉田千恵子
どか雪や山笑ひかけまた眠る 大阪 木下洋子
薄氷を一番乗りで踏んで行く 大阪 木下洋子
声だけを空に残して落雲雀 大阪 澤田美那子
余呉の湖許されて今朝寝かな 大阪 齊藤遼風
わけ知らぬ身にも建国記念の日 兵庫 天野ミチ
春時雨微かに濡れし交差点 兵庫 髙見正樹
春の野へ出でて遊べや仏たち 奈良 きだりえこ
海からの電車大きな籠と海女 奈良 中野美津子
一茶忌や烏蹴散らす塵芥車 奈良 柏木博
薄氷の生れては消ゆる黙かな 和歌山 玉置陽子
退院の母を迎へる春炬燵 岡山 北村和枝
善哉よかっぽ酒よと初午祭 長崎 ももたなおよ
声上げて菜飯喜ぶ白寿かな 長崎 川辺酸模
枝を手に妻の追ひゐる畦火かな 長崎 川辺酸模
前生も死後も茫々残る雪 大分 竹中南行
ネット投句(2023年1月31日)選句と選評
【特選】
ずり落ちてこらへをるなり屋根の雪 北海道 柳一斉
無一物なれど寿ぐ雑煮かな 千葉 麻生十三
雪晴間一斉に出て雪を掻く 新潟 高橋慧
生と死を静かに分かつ白障子 愛知 稲垣雄二
【入選】
寒波来る靴底に鋲打ちにけり 北海道 村田鈴音
さんざめく脳裏かダイヤモンドダスト 北海道 芳賀匙子
初詣八方塞がりまた愉し 岩手 川村杳平
冬晴れや流るる雲がビルに映え 茨城 袖山富美江
手作りの時雨煮さげて寒見舞 千葉 麻生十三
庭の木やある日一気に日脚伸ぶ 東京 神谷宣行
寒波来る色とりどりのニット帽 東京 神谷宣行
薄氷や友と歩みし通学路 東京 楠原正光
白き富士すぐそばにあり三島駅 神奈川 伊藤靖子
豆撒きや冷たき廊下小走りに 神奈川 越智淳子
行き場なき怒り悴む拳かな 神奈川 三玉一郎
自転車の幌に眠る子冬満月 神奈川 植木彩由
思ひ出せ思ひ起こせと笹鳴ける 神奈川 中丸
探梅に亡き人さそふ朝かな 神奈川 中丸
お祝いへ一番好きなマスクして 神奈川 那珂侑子
雪国の月を焦がしてどんど焼き 神奈川 片山ひろし
難読書読んでは伏せて冬籠り 新潟 安藤文
炉焚けど焚けど寒気がそのあたり 長野 金田伸一
極寒の幹裂く音や神の森 長野 大島一馬
初場所や山と山とがぶつかりぬ 岐阜 夏井通江
桜榾さくらのいのちあかあかと 大阪 安藤久美
福笹は小ぶりがよろし鯛揺らし 大阪 木下洋子
1.17は戦争だつた阪神忌 兵庫 加藤百合子
ゆっくりと寒九の水を飲み砕く 兵庫 吉安とも子
大寒に加へて訃報ありにけり 兵庫 天野ミチ
足蹴りの素足小さき寒稽古 兵庫 藤岡美恵子
鬼に撒く豆も値上がり節分会 奈良 きだりえこ
冬桜手を振らずともよき別れ 奈良 柏木博
粕汁や婆がほんのり赤くなり 奈良 柏木博
魚は氷にずきんと痛む親不知 和歌山 玉置陽子
馥郁と紙かをりをり初暦 岡山 齋藤嘉子
雪解けて現るる地蔵笑みしまま 広島 鈴木榮子
ネット投句(2023年1月15日)選句と選評
【特選】
眠る梅起きよ起きよと梅探る 東京 神谷宣行
寒餅や豆の抜けたる穴覗く 石川 密田妖子
母象の足の鉄球春遅し 京都 吉田千恵子
【入選】
山山やざんぐり御座す大旦 北海道 芳賀匙子
雪の降るひとりの午後や墨を磨り 北海道 柳一斉
真っ白な大地広がる淑気かな 北海道 髙橋真樹子
死者生者集ひて今日は初句会 北海道 髙橋真樹子
人間に自我てふ阿修羅鬼やらひ 宮城 長谷川冬虹
三月十一日十二年経て浪ばかり 宮城 長谷川冬虹
凍鶴の愛のしぐさのままこほる 埼玉 園田靖彦
湯とほしのまことまあかや寒の鯛 埼玉 園田靖彦
初句会笑顔に邪魔なマスクかな 埼玉 上田雅子
ここもそこも届かぬ高さ大掃除 千葉 芦野アキミ
蓬莱や背戸を出れば梅林 千葉 若土裕子
疫の世やみな息災に粥柱 千葉 若土裕子
小雪舞ふベンチに白杖年越しぬ 千葉 青山果楠
成人の日あと80年の労苦かな 東京 長尾貴代
母猫のくはへてもどす子猫かな 東京 楠原正光
霙霏霏雲水の赤きかかとかな 神奈川 遠藤初惠
寒風や一抉りして遠ざかる 神奈川 三浦イシ子
どんどの火その中に父見てしまふ 神奈川 三玉一郎
父の記憶一本の氷柱かな 神奈川 三玉一郎
小寒やいよいよ青き鳶の空 神奈川 植木彩由
御降や有り難きとて退け候 神奈川 植木彩由
老いるとは裏が白紙の賀状受く 神奈川 土屋春樹
書くほどのこと無き日々や日記買ふ 神奈川 藤澤迪夫
当番の札を隣家に御慶かな 神奈川 藤澤迪夫
怪しげなものも混じつてどんどかな 新潟 安藤文
ひとときの春待つこころ鳩サブレ― 石川 花井淳
初場所や綺麗所が五六人 石川 密田妖子
出刃をまづ首の根つこへ鰤捌く 長野 金田伸一
とこ永遠にこの里はよし雪浄土 長野 金田伸一
日脚伸ぶ言はずもがなの言い訳す 長野 大島一馬
画面みて髪型直す初句会 岐阜 夏井通江
放し飼ふ鶏の生みし寒卵 岐阜 古田之子
十二時のチャイム聞こゆる冬の山 岐阜 梅田恵美子
初日記指切れさうな一ページ 愛知 稲垣雄二
産土へこぼす鈴の音手鞠唄 愛知 臼杵政治
大空へわが存問ぞ凧 愛知 臼杵政治
雪折れや未だ売れざり祖父の山 愛知 宗石みずえ
冷たさを問ひ交はしつつ冬耕 愛知 宗石みずえ
ゆで過ぎが母には良けれ晦日蕎麦 大阪 内山薫
探梅や行けるかぎりを我が足で 大阪 澤田美那子
幼きもこぶし突上げ寒稽古 兵庫 天野ミチ
溜息や転びて花のスケーター 奈良 柏木博
一炊の夢より還る年の暮 奈良 柏木博
初受診母はそのまま入院よ 岡山 北村和枝
鶏小屋の八方へ打つ追儺豆 香川 曽根崇
三日はや昨日の誓ひ忘れけり 長崎 川辺酸模
愛し子の訃淡々と寒見舞 長崎 川辺酸模
悠久のなかの縁や鏡餅 大分 竹中南行
ネット投句のみなさんへ
ネット投句、意味不明(独りよがり)の句が目立ちます。古志の会員の方はズーム句会などに参加して、このままでほかの人にわかるのか、鍛え直してください。
つねづね「俳句は発想にはじまり、推敲に終わる」と申し上げていますが、既存の発想を借りてないか、推敲は十分か、考えてください。