ネット投句(2022年12月15日)選句と選評
【特選】
一輪の大きしじまや冬薔薇 神奈川 三浦イシ子
落葉掃く怒りの音を立てながら 新潟 安藤文
歩み来る年は一人で歩む年 石川 花井淳
煮凝りの揺れて一夜の密かごと 石川 松川まさみ
暗闇が語り始むる焚火かな 愛知 稲垣雄二
野良に生く猫の矜持や寒の月 京都 諏訪いほり
何故の戦争ならむ榾真赤 和歌山 玉置陽子
病みゐても冬青草のやうに生く 岡山 北村和枝
大根焚寺の大屋根朝日さす 香川 曽根崇
死ぬる日も阿呆と呼ばれ手鞠唄 長崎 川辺酸模
といつても確と三食冬ごもり 大分 竹中南行
【入選】
鮟鱇の愛想笑ひの出来ぬ貌 北海道 村田鈴音
思ひ出てふ厄介なもの雪の降る 北海道 柳一斉
ラジオ消し己に戻る冬の夜 北海道 柳一斉
加湿器の湯気のぼりゆく雪晴間 北海道 柳一斉
そこかしこ老人施設白鳥飛ぶ 青森 三浦勝衛
一ミリのドーハの勝利冬はじめ 青森 清水俊夫
着膨れて地球の未来守らんと 青森 清水俊夫
この冬は山茶花散るもいとはしき 宮城 長谷川冬虹
傷みとは生きてる証し冬茜 茨城 袖山富美江
あの人の冬帽らしき日暮かな 茨城 袖山富美江
炭を焼く六法全書脇にあり 埼玉 佐藤森恵
冬ごもり一人に広し3DK 埼玉 上田雅子
父二十三母七回忌秋の逝く 千葉 芦野アキミ
こりこりと噛めば海鳴り海鼠かな 千葉 若土裕子
山行けば靴の埋もるる落葉道 千葉 春藤かづ子
ネットより投句重ねて年の暮 千葉 谷口正人
入院の友便りなく年の暮 千葉 谷口正人
日向ぼこベッドの窓に身を寄せて 千葉 池田祥子
夢の世に泥葱くるる友老いぬ 千葉 池田祥子
音読の父の声聞く冬の夜 千葉 麻生十三
着ぶくれて飛行機仰ぐビルの上 東京 堀越としの
ミサイルが飛び交ふ夜明け山眠る 東京 櫻井滋
故郷の磯の香まとひ牡蛎とどく 神奈川 伊藤靖子
しずもれるものみな見ゆる雪月夜 神奈川 越智淳子
年の暮母にしたがふ厨かな 神奈川 三浦イシ子
寒稽古人間を呼び覚ましけり 神奈川 三玉一郎
大臣は寝てをる今日は憂国忌 神奈川 植木彩由
冬日どつしり七百年の柏槙に 神奈川 中丸佳音
熱燗や祖父父叔父が浮かび来る 神奈川 土屋春樹
また遅延東海道線ふところ手 神奈川 湯浅菊子
立冬の峰夕闇に呑まれゆく 神奈川 藤澤迪夫
すつきりと冬木のやうな句を詠まん 神奈川 那珂侑子
満員の電車咳する人なきや 神奈川 那珂侑子
スクラムの解けてラガーのこぼれ出づ 神奈川 片山ひろし
初雪やふるさとのなき人ばかり 新潟 安藤文
妻のいぬ間のひと時を冬椿 新潟 安藤文
冬桜しんと千代尼の埋骨所 石川 密田妖子
俊秀の会にのぞまん開戦日 長野 金田伸一
句を破る心たいせつ花梨の実 長野 金田伸一
冬銀河ハレルヤの歌昇り詰む 長野 大島一馬
ウイルスも地球に住める冬銀河 長野 大島一馬
歳晩や久しく聞かずお年の実 岐阜 三好政子
綿虫や姉が施設へ入る朝 岐阜 梅田恵美子
大空へいのち眩しき冬木の芽 岐阜 梅田恵美子
凩は君の拳や頬を打つ 愛知 稲垣雄二
十二ヶ月遅れの返事賀状書く 愛知 臼杵政治
セーターをくれし女と行き交ひて 愛知 臼杵政治
着ぶくれやジャージをのこの隣席へ 愛知 宗石みずえ
チバニアン七十万年山眠る 愛知 青沼尾燈子
友と吾といづれちゃらぽこ漱石忌 愛知 青沼尾燈子
折り線ずれし折り鶴冬籠 京都 吉田千恵子
まねき立つ空を飛び交ふ百合鴎 京都 佐々木まき
干し柿や思ひ描きし味ならず 京都 諏訪いほり
炊き合はすものを選ばぬ大根かな 京都 氷室茉胡
嵐山の竹の囁き初時雨 京都 氷室茉胡
悴むや見舞の言葉探しつつ 京都 氷室茉胡
牡蠣舟や電飾の岸遠ざけて 大阪 澤田美那子
波郷忌や我抱く母の手術痕 大阪 齊藤遼風
冬うらら飛び交ふ烏あそこにも 兵庫 天野ミチ
間違ふて鳩色気づく小春日や 兵庫 天野ミチ
振出しに戻る双六茶を啜る 兵庫 福田光博
渾身の一句を添へて賀状書く 奈良 きだりえこ
にこにこと蜜柑の国の君が来る 奈良 きだりえこ
またひとり大往生や年の内 奈良 中野美津子
狐火の話を誰に聞かせうぞ 奈良 柏木博
狐の尾隠し持つたる顔集ふ 奈良 柏木博
掌の中に母の手帰り花 和歌山 玉置陽子
寒晴や次の手術日決まりたる 岡山 北村和枝
薬飲む刻も惜しみて師走かな 岡山 北村和枝
塀越しに聞く鋏音松手入れ 広島 鈴木榮子
年用意作務衣に見する主婦の意気 広島 鈴木榮子
争ひはやめよやめよと冬将軍 長崎 ももたなおよ
煮凝りに背びれすくつと立ちてあり 長崎 ももたなおよ
茎桶の寝息もれをり月の小屋 長崎 川辺酸模
ちよつと減る平均余命氷柱かな 大分 山本桃潤
ふくふくと煮ゆる雑炊漱石忌 大分 竹中南行
狼や小型が流行るペット犬 大分 竹中南行