ネット投句(2022年12月31日)選句と選評
【特選】
くろぐろと雄勝の石や初硯 宮城 長谷川冬虹
石蕗の花母は位牌となりたまふ 宮城 長谷川冬虹
この星の一点に立ち独楽廻る 愛知 稲垣雄二
去年今年闇清らかに人の声 愛知 稲垣雄二
去年今年人もコロナも生き延びて 大阪 澤田美那子
善人の顔して撞かん百ハつ 奈良 きだりえこ
幸せの尽きることなき林檎箱 大分 山本桃潤
金婚の妻と住む家目貼かな 大分 山本桃潤
鬼柚子も仏顔なる湯船かな 大分 竹中南行
【入選】
地吹雪とささら電車の雄叫びと 北海道 村田鈴音
筆談の文字飛び交ふや冬日和 北海道 村田鈴音
冬の日や樹に凍裂の遠き声 北海道 芳賀匙子
拍手や雲遮るも初岩木 青森 工藤一枝
眠れぬ夜は雪見障子を上げておく 青森 三浦勝衛
接種待つ椅子の硬さや雪催 青森 三浦勝衛
外されぬビニール仕切り去年今年 青森 清水俊夫
白鳥を見ている我も一人かな 茨城 袖山富美江
かの人の冬帽らしき並木道 茨城 袖山富美江
音も無きクイックターン初泳ぎ 埼玉 上田雅子
残り火の焼き芋うまし夫のいて 千葉 春藤かづ子
年の暮子の来て直す掛時計 千葉 池田祥子
かつ節を一節買いて年用意 千葉 麻生十三
橙の実のゆさゆさと門囃す 東京 畠山奈於
母さんの小包解いたら落葉 神奈川 植木彩由
バジルの香口に残りぬ年忘れ 神奈川 中丸佳音
除夜の鐘身を投げ出して撞く一打 神奈川 藤澤迪夫
浅草は夢多き町初参り 神奈川 片山ひろし
着ぶくれて遅れましたと新聞来 新潟 安藤文
大冬木嚏しさうな気配あり 新潟 安藤文
黄昏の雑踏に探す君のコート 新潟 高橋慧
皮剝けばたちまち女体鮟鱇は 富山 酒井きよみ
独楽廻す江戸むらさきの蓋の上 石川 花井淳
羊羹の切り口の寂冬銀河 石川 花井淳
雲隠文に尽くせぬ年逝けり 石川 花井淳
大晦日雁字搦めの地球かな 長野 大島一馬
冬蝶の息の聞こゆる草の中 岐阜 古田之子
煤払ひ蜘蛛の寝床も蜘蛛の巣も 岐阜 古田之子
戦争は戦争のまま去年今年 愛知 稲垣雄二
誰がために弾くや聖夜のラブソング 愛知 臼杵政治
百歳までぬくぬく尾州の外套ぞ 愛知 臼杵政治
この一尾喜寿の祝ひへ金目鯛 愛知 臼杵政治
寒晴や百一歳の昇天す 愛知 宗石みずえ
橙ひとつ薄暗がりに置かれをり 愛知 青沼尾燈子
猫の骨納めし壷や雪時雨 京都 吉田千恵子
あれとこれそうそうそれも年用意 京都 諏訪いほり
贅沢を諫むる家訓根深汁 京都 氷室茉胡
兎当番八百屋でもらふ大根葉 大阪 木下洋子
夫婦して命がけなる雪下し 大阪 木下洋子
着ぶくれて原子炉再開反対す 大阪 澤田美那子
宝船八十路の夢を託しけり 大阪 澤田美那子
きょう一夜波郷のおごり河豚の鍋 大阪 齊藤遼風
火の国の寒鯉闇に静かなり 大阪 齊藤遼風
家を継ぐ子等も居らずや餅を搗く 兵庫 吉安とも子
ほれ起きよ椎茸榾木たたき冬 兵庫 藤岡美恵子
これからは二人の暮らし薪積む 兵庫 藤岡美恵子
かにかくに思ひわずらひごまめ食ふ 兵庫 福田光博
去年今年病を二つ持ち越せり 兵庫 髙見正樹
船旅や水平線に初明り 兵庫 髙見正樹
赤ん坊の声ある国や初明かり 奈良 きだりえこ
木星と土星の近し冬の暮 奈良 中野美津子
いつの世ぞ押しくら饅頭の声もがな 奈良 柏木博
いただきし鮟鱇われの指を噛む 奈良 柏木博
湯婆のまだあたたかき別れかな 和歌山 玉置陽子
陰神のほとに日当る冬至かな 和歌山 玉置陽子
ともかくも本の整理や年用意 岡山 北村和枝
片付かぬ部屋も居心地よき冬日 岡山 北村和枝
風邪引いて一日の長くなりにけり 岡山 北村和枝
若水や十や二十は若返る 岡山 齋藤嘉子
柚子湯浴ぶ脳裏かすめるウクライナ 広島 鈴木榮子
数へ日や世界が終はるわけでなし 長崎 ももたなおよ
世の中が混沌として年迫る 長崎 ももたなおよ
炊き出しのテントに列なす年の暮 長崎 ももたなおよ
霙降る享年二十歳陸軍伍長 大分 山本桃潤
一茶忌や差別はびこるばかりにて 大分 竹中南行
太古より崇むる士峰大寒波 大分 竹中南行