ネット投句(2022年3月15日)選句と選評
・ロシアによるウクライナ侵略の句あまた。
・スローガンにならないようにご注意ください。
・ウクライナの歴史と国民性については
シェフチェンコ詩集『ゴブザール』(群像社)をお読みください。
シェフチェンコは19世紀の人、ウクライナの国民的詩人です。
・旧かな、きちんと。
・てにをは、推敲を。
【特選】
山の匂ひ海の匂ひ北窓開く 北海道 芳賀匙子
・の、必要。
菜の花の熱気の中を歩みゆく 千葉 谷口正人
・けり
機嫌よくサーファーを待つ春の海 神奈川 三浦イシ子
我が終の歳時記なりや春届く 石川 松川まさみ
世界戦聞くだに寒き春の日々 長野 金田伸一
初蝶来ウクライナの野遥けしや 岐阜 三好政子
以下同文の卒業証書戴きぬ 岐阜 辻雅宏
万作の笑ひころげる深空かな 岐阜 梅田恵美子
退院の服のゆるさや春の風 愛知 宗石みずえ
十一年彷徨ひつづけ流し雛 愛知 青沼尾燈子
子猫来る悔い多き子育ての後 京都 吉田千恵子
新婚のごときはなやぎ春キャベツ 大阪 安藤久美
ミモザ咲く大学やめて戦場へ 大阪 木下洋子
空爆のなき空選べ帰る雁 大阪 澤田美那子
たくあんに演歌聞かせる日永かな 和歌山 玉置陽子
【入選】
日に向かい小石跳ねのけ蕗の薹 北海道 村田鈴音
白樺の白のくらさよ春の日に 北海道 芳賀匙子
節分の鬼どち憩へ我が庵に 北海道 柳一斉
花束に春の香訪問散髪師 北海道 柳一斉
山の匂ひ海の匂ひ北窓開く 北海道 芳賀匙子
日に向かい小石跳ねのけ蕗の薹 北海道 村田鈴音
白樺の白のくらさよ春の日に 北海道 芳賀匙子
節分の鬼どち憩へ我が庵に 北海道 柳一斉
花束に春の香訪問散髪師 北海道 柳一斉
地球てふ儚くもろき吊し雛 宮城 長谷川冬虹
大白鳥帰りて告げよ撤兵を 宮城 長谷川冬虹
大口の胃袋五つ鳥の巣に 福島 渡辺遊太
太陽のつと立ち止まる初音かな 福島 渡辺遊太
麗かや風来るほうにドッグラン 茨城 袖山富美江
・へ
爆撃の音を聞きつつ雛納む 埼玉 上田雅子
春の道生まれてすぐに難民に 埼玉 上田雅子
はくれん伐るこれも身辺整理かな 埼玉 藤倉桂
花吹雪風の形はト音記号 千葉 芦野アキミ
雉の声ソーラーパネルくぐりぬけ 千葉 宮城治
ほらほらとベッドの君へ蕗の薹 千葉 池田祥子
桃の花雛なき家の甕に挿す 千葉 麻生十三
春の日をもろ手を挙げて浴びにけり 東京 横山直典
ひとはみな春の水よりうまれけん 東京 長井亜紀
濁らせてかく輝くや春の水 東京 長井亜紀
最終講義迎え学舎の梅開く 東京 杜野廉司
卒業やトーテムポールに送られて 東京 楠原正光
交番はパトロール中燕の子 東京 櫻井滋
たんぽぽや戦車に追はれ国堺 東京 櫻井滋
泣きながら歩く子の姿あの日本 神奈川 伊藤靖子
平和とは脆きものぞと知りし春 神奈川 伊藤靖子
・ぞ、不要。
草木の芽吹きささめく真夜の雨 神奈川 遠藤初惠
川音の春のリズムとなりにけり 神奈川 三浦イシ子
白菜を抱へよろめき酔ふごとし 神奈川 三浦イシ子
吹く風のこころの色のスイートピー 神奈川 三玉一郎
かなしみが先に目覚める雪解かな 神奈川 三玉一郎
・形にせよ。
春眠やパジャマのボタン取れたまま 神奈川 水篠けいこ
しづかにも賑やか涅槃像ほとり 神奈川 中丸佳音
ふるさとの春の色なり嫁菜飯 神奈川 片山ひろし
春炬燵銃声ひびくテレビ画面 新潟 安藤文
ドーナツの穴をかざして春愁 新潟 安藤文
退院の日まで納めず雛人形 新潟 高橋慧
母の手の温もり伝ふ土雛 石川 花井淳
古雛テレビ画面は戦火の街 石川 松川まさみ
みちのくの海ひた濡れて春の雪 石川 松川まさみ
・みちのく、安易。
雲中の爆音過る垣手入れ 石川 密田妖子
石裂けて九尾の狐出づる春 長野 金田伸一
惜別は永別に似て春の蝶 長野 金田伸一
雪の花空にあふれてきりもなし 岐阜 夏井通江
紅梅とともにすごせし日々ありし 岐阜 夏井通江
・ありき
戦争といふは物の怪春月夜 岐阜 古田之子
大きなる伏籠の如く馬酔木咲く 岐阜 三好政子
・上五、大げさ。
不穏なる世とも知らずや蛇出づる 岐阜 梅田恵美子
・に
太陽の声かと思ふ初雲雀 愛知 稲垣雄二
命を取り上ぐるごと雛出す 愛知 稲垣雄二
桐の箱開けることなし雛の日 愛知 青沼尾燈子
内裏雛爺婆だけとなりにけり 愛知 青沼尾燈子
来し方の話の尽きぬ遍路宿 京都 氷室茉胡
・ず
春の靴きのふとちがふ道行かむ 大阪 安藤久美
春愁のゆつくりはがす絆創膏 大阪 安藤久美
ウクライナの都市の名覚え春哀し 大阪 木下洋子
国家主義ぬつと顔だす春の泥 大阪 木下洋子
一人だけ残りて春の炬燵かな 大阪 澤田美那子
国境は遥かに遠し春の雷 兵庫 加藤百合子
暴君の膝に子犬のぬくもりを 兵庫 加藤百合子
白梅を吹き上げてをり枝構へ 兵庫 加藤百合子
紅梅の賑わふ空のありにけり 兵庫 吉安とも子
さくら湯や小さき波音ひびきをり 兵庫 魚返みりん
群雲も西へ西へと夕永し 兵庫 魚返みりん
宙に舞ふスノーボードや山笑ふ 兵庫 千堂富子
春の空青と黄色の国旗かな 兵庫 天野ミチ
港外に波立つ浮標春の潮 兵庫 髙見正樹
一本の藁で始める巣組かな 奈良 喜田りえこ
日輪や今日より低き虻の声 奈良 田原春
啓蟄や穴ぼこだらけの民主主義 和歌山 玉置陽子
つちぐもり空に曼陀羅描くかに 広島 下田あつ子
残生の天の恩寵朝寝かな 長崎 川辺酸模
・残生に
両の掌に真昼の銀河水温む 大分 竹中南行
更紗木瓜高き枝より咲き初むる フランス 廣瀬玲子