俳句の相談/夏蜜柑は夏の季語か?
【相談】
かなり前から、近所の垣根越しに大きな夏蜜柑が垂れ下がっています。こんなに大きくなって夏まで保つのかな、とはらはらしています。歳時記には夏の季語とされていますが、冬あるいは春の季語にもなるような気がします。歳時記に従わなければなりませんか?
【回答】
たしかにそうですね。この問題を考える大前提として、まず次のことを念頭に置いてください。
科学的事実は文学とは異なること。科学と文学の間にいつも一線を引いておいてください。いいかえれば文学は科学的事実に縛られない。自由な文学においてはつねに創造力(想像力)こそ大事です。科学と文学は日本的リアリズムいわゆる写生を基本に置いてきた明治以降の俳句ではしばしば混同されがちですが、俳句も文学ですから科学的事実に縛られません。
歳時記にある季語についても同じことがいえます。科学に従うのであれば、亀鳴く、雪女などの季語はそもそもあってはならない。また朝顔は梅雨ごろから咲いているので夏の季語かというと秋の季語です。これが文学です。
問題の夏蜜柑は翌年の初夏に熟するので、そう呼ばれています。夏の蜜柑が珍しいからでもあり、その酸味が初夏にこそふさわしいからでもあります。温州蜜柑などふつうの蜜柑は秋から食べられますが、秋ではなく冬の季語にしているのと同じです。そもそも夏蜜柑と呼びながら冬や春の季語というのは変ではありませんか。
夏蜜柑の花も初夏の季語です。白い花と黄色の実がいっしょに木にある、これが夏蜜柑という季語の風景です。