第一句座
・矢野京子選
【特選】
涼風を入れて始まる厨かな 夏井通江
木立ぬく画美鳥の声明易し 大平佳余子
蚊帳を吊る夢に父母若かりし 矢田民也
葛焼いて切り並べたる涼しさよ 長谷川櫂
朴の花茅舎浄土に降りつもれ 大場梅子
【入選】
うまかりし煮物のはなし母の日は 石塚純子
余り苗貰つてうれし学校田 神戸秀子
子に書きし短き手紙みどりの夜 斉藤真知子
サラダにも卓にも飾り花山葵 菅谷和子
ほこほこと鮎の子を焚く淡海かな 長谷川櫂
街路樹の枇杷の黄色やバスが来る 原京子
優勝の朝刊風の香りけり 瑞木綾乃
青竹に盛ればご馳走冷素麺 菅谷和子
調律やピアノの音も更衣 安藤文
冷や酒や九十の母と酌み交わす ストーン睦美
日傘もて太陽と地球隔てけり ストーン睦美
麦秋や雲雀まだまだ鳴き足らず 加藤裕子
さざ波の絶ゆることなき植田かな 金田伸一
夏柳伐られて風の行方かな 今村榾火
父の日や父の愛した鯨肉 伊藤靖子
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
生きすぎて己に飽きぬ山椒魚 斉藤真知子
父の日や父は写真の中にのみ 矢野京子
満開の藤の巨木の宇宙かな 林弘美
夢に吊る蚊帳に父母若かりき 矢田民也
ためらへる我を一突き心太 菅谷和子
【入選】
アカシアの花咲く街に父眠る 林弘美
山桃の青き実を踏む山路かな 駒木幹正
鶺鴒は小走りが好き五月晴 駒木幹正
調律やピアノの音も更衣 安藤文
大楠の揺れて頼もし夏に入る 斉藤真知子
鳩一羽ホームを歩く暑さかな 安藤文
戦後はた戦前なるか昼寝覚 矢田民也
単衣着て挑むかるたや夏の陣 ストーン睦美
朴の花茅舎浄土に散りつもれ 大場梅子
枇杷の実や見え隠れする分厚い葉 伊藤靖子
ラベンダー百万株を一望す 高橋真樹子
第二句座(席題:黴、洗膾)
・矢野京子選
【特選】
検鏡す黴に万華の宇宙あり 駒木幹正
モナリザは黴の世に咲く花のごと 神戸秀子
黴の花咲かせどうする議事堂よ 大場梅子
【入選】
大胆な一句を所望洗鯉 長谷川櫂
黴生ゆる家も家族も捨て去らん 瑞木綾乃
黴の宿老舗の宿といはれても 大平佳余子
営林は祖父の天職洗鯉 駒木幹正
北国の誉ぞホッケ活き作り 高橋真樹子
紅の身の涼しさよ洗鯉 長谷川櫂
黴さへも正倉院に眠るなり 加藤裕子
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
黴を詠むことの楽しき暮しかな 金田伸一
黴生ゆる家も家族も大事かな 瑞木綾乃
モナリザは妖しき花や黴の世に 神戸秀子
黴びてこそ正岡子規の全集は 伊藤靖子
黴の香に安らぐ我を怪しみぬ 石塚純子
黴の世に正倉院の眠るなり 加藤裕子
【入選】
顕微鏡黴の万華の宇宙あり 駒木幹正
青竹の打ち合ふ音を洗鯉 菅谷和子
黴の中まだ新しき俳句あり 高橋真樹子
営林は祖父の天職洗鯉 駒木幹正
満足の今日の株価や洗ひ食ふ 加藤裕子
俎にのつてたちまち洗膾かな 矢田民也
たちまちに雨の上がりし洗膾かな 神戸秀子
登り来て深山の宿や洗鯉 ももたなおよ
北国の誉ぞホッケ活き作り 高橋真樹子
湖のけふはしづかに洗鯉 斉藤真知子
山青き佐久にふるまふ洗鯉 石塚純子
洗鯉九重の水の湧く里に 菅谷和子
また一盃大吟醸や洗ひ鯉 斉藤真知子