つるのびて天上天下ががいもの花 | 北海道 | 芳賀匙子 |
荒梅雨や大蛇のごとく最上川 | 宮城 | 長谷川冬虹 |
ほととぎす記憶の谷から聞こえくる | 千葉 | 木地隆 |
遠くまで見えてバス来ぬ酷暑かな | 東京 | 櫻井滋 |
木から木へ燃え移るなり蝉の声 | 神奈川 | 三玉一郎 |
青年の裸のまぶし牛洗ふ | 新潟 | 安藤文 |
初蝉や身の裂けるほど泣くがよし | 石川 | 北村おさむ |
軽井沢産のビールは冷えて着く | 長野 | 金田伸一 |
わなわなと忍び泣く花烏瓜 | 静岡 | 湯浅菊子 |
日の熱の残る暗闇蛍飛ぶ | 愛知 | 稲垣雄二 |
金メダル地獄を見きとさはやかに | 大阪 | 澤田美那子 |
炎天や黙礼交す杖と杖 | 大阪 | 澤田美那子 |
風の来て大海原となる青田 | 兵庫 | 吉安とも子 |
夜が明けて魔法の解けし蛍かな | 奈良 | 中野美津子 |
口紅のどろりと溶くる炎暑かな | 奈良 | 中野美津子 |
紀ノ国は大空の中夏の果 | 和歌山 | 玉置陽子 |
愛せざる哀しみもあり梅を煮る | 広島 | 森恵美子 |
蝉時雨遥かに我のゐたりけり | 広島 | 森恵美子 |
明易の何の報ひやこの病苦 | 高知 | 森脇杏花 |
素潜りの少年魚群の中にかな | 長崎 | ももたなおよ |
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ネット投句(2024年7月15日)特選
生き方の異なる母の髪洗ふ | 神奈川 | 植木彩由 |
散り敷きて今日の命や凌霄花 | 新潟 | 高橋慧 |
かすむ目にもつと光を雲の峰 | 長野 | 金田伸一 |
三伏や顔まつかにし卯の花炒る | 静岡 | 湯浅菊子 |
夏帽子大地に置きて黙祷す | 愛知 | 稲垣雄二 |
寝返りの骨が軋むや夏の夜 | 奈良 | きだりえこ |
妻死さば我は骨なし古団扇 | 長崎 | 川辺酸模 |
古志広島ズーム句会(2024年9月1日)
第一句座
・矢野京子選
【特選】
石あらばたれの墓ぞと秋遍路 矢田民也
神仏吹き飛ばされし野分朝 城山邦紀
銀漢や我が光陰はホ句の中 今村榾火
不知火の言葉の海へ帰省かな 長谷川櫂
父と子のだんまり続く榠樝の実 石塚純子
【入選】
独り居をたたくはクイナばかりなり 岡村美沙子
祝はれて酔ひほのぼのと温め酒 菅谷和子
ひとつ咲き暑さ嫌いの牽牛花 加藤裕子
ちちははと居た日は遠し初秋刀魚 高橋真樹子
荼毘に付すしづかな時を鉦叩 今村榾火
若冲の鶏になりたや羽抜鶏 大平佳余子
旅立つ日金魚を池へ放ちやる 伊藤靖子
すいつちよのちよいと飛び込む勝手口 ストーン睦美
ひげ生やし息子現はる盂蘭盆会 夏井通江
台風のぐづらぐづらや大混乱 大平佳余子
いびつでも愛しき家族吾亦紅 瑞木綾乃
お七夜を終えて連れ出す地蔵盆 ももたなおよ
先生の魔法の手なり小鳥来る 大場梅子
水柱噴いて厄日のマンホール 神戸秀子
アルプスの雫よシャインマスカット ももたなおよ
竹伐りの音叡山にこだまする 大平佳余子
やはり道間違へたらし秋の山 原京子
邯鄲と母が教へてくれし日よ 斉藤真知子
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
もう裂けるところはあらず破芭蕉 斉藤真知子
竹を伐る音こだませり比叡山 大平佳余子
にぎやかに月より戻る屋形船 今村榾火
【入選】
亡き犬が来て寄り添ひぬ秋の夜 夏井通江
悶々と術後の夜長いかにせん 大場梅子
野分晴マッターホルンのような雲 伊藤靖子
朝からの秋の暑さに家ごもり 夏井通江
台風に灼熱列島ひと呼吸 加藤裕子
やはり道間違へたらし秋の山 原京子
ふるさとの墓仕舞しぬつくつくし 神戸秀子
白桃を剥きゐて静かなる夜かな 斉藤真知子
赤ん坊も母も眠りぬ涼新た ももたなおよ
人無惨草木無惨秋に入る 矢野京子
台風一過青空のぼりゆく一機 斉藤真知子
第二句座(席題:朝顔、秋高し)
・矢野京子選
【特選】
山一つ湖に浮かべて秋高し 高橋真樹子
朝顔棚藍一色の瀧をなす 長谷川櫂
朝顔の色を殺してしぼみけり 矢田民也
【入選】
朝顔の開きそこねに手をかして 大平佳余子
秋高し放たれし犬まっしぐら 石塚純子
朝顔が見送ってゐる登校子 石塚純子
年ごとに色淡くなり牽牛花 原京子
朝顔にきのふの夜の匂ひあり 高橋真樹子
朝顔やきのふの花をもう忘れ 斉藤真知子
この先はすべてが記録秋高し 金田伸一
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
朝顔や今朝は不調の俳句会 金田伸一
秋高しされど不作や秋津洲 菅谷和子
朝顔や今朝の花さへもう忘れ 斉藤真知子
【入選】
父愛す藍の朝顔ひらきけり 菅谷和子
秋高し放たれし犬まっしぐら 石塚純子
朝顔の一輪ひらく大事かな 斉藤真知子
朝顔と大きく書きぬ種袋 高橋真樹子
古志仙台ズーム句会(2024年8月25日)
第一句座
長谷川冬虹選
【特選】
死ねといふ時代ありけり敗戦忌 長谷川櫂
もう何も叱らぬ父よ墓洗ふ 川辺酸模
産土の神に捧ぐる村歌舞伎 武藤主明
そのうちに行くよと洗ふ墓一基 及川由美子
【入選】
初さんま白長靴の衆走り 及川由美子
閑けさを両手につつみ鳩を吹く 上村幸三
名にし負へど花色やさし弁慶草 服部尚子
見得切つて舞台に出づる夏の月 武藤主明
遠萩や波うねりたる海に似て 及川由美子
高まりて徐々に早まる蝉の声 川村杳平
真夜中の風生臭き鵺の笛 武藤主明
流星群見て来た妻の寝顔かな 平尾 福
煮えたぎる暑さの底に秋生まる 齋藤嘉子
一生を地歌舞伎支ふ黒子役 宮本みさ子
長谷川櫂選(推敲例)
【特選】
白桃の一つ小籠に眠りをり 石川桃瑪
蜩は夢から覚めて鳴き始む 平尾 福
もう何も叱らぬ父よ墓洗ふ 川辺酸模
【入選】
つるはしを持ちて入営敗戦日 齋藤嘉子
黄泉の足この世に戻す踊りかな 臼杵政治
幸せな家族写真や敗戦忌 臼杵政治
母の焼く秋刀魚恋しき夕べかな 川辺酸模
栗飯や母の遺せし母子手帳 長谷川冬虹
煮えたぎる暑さの底に秋生まる 齋藤嘉子
そのうちに行くよと洗ふ墓一基 及川由美子
第二句座(席題:南瓜、飛蝗、地蔵盆)
長谷川冬虹選
【特選】
絵葉書をはみ出している赤南瓜 甲田雅子
脚一つ残して行きしバッタかな 平尾 福
おふくろと呼ばれ南瓜の煮物かな 那珂侑子
包丁の身動きできぬ大南瓜 甲田雅子
【入選】
ゆきすぎてゆきすぎがたし地蔵盆 長谷川櫂
切り分けて配り歩かん大南瓜 齋藤嘉子
群れなして猿が南瓜をひとつづつ 宮本みさ子
はたはたや兄が秘密の釣りの場所 上村幸三
いびつでも村一番の南瓜かな 佐伯律子
ふるさとの空うつくしき南瓜かな 三玉一郎
袋さげハシゴしてゆく地蔵盆 平尾 福
地蔵盆かつて間引のありし村 武藤主明
長谷川櫂選(推敲例)
【特選】
切り分けて配り歩かん大南瓜 齋藤嘉子
南瓜煮て愛のひと匙離乳食 谷村和華子
子どもらも猫も集まり地蔵盆 谷村和華子
包丁と力比べの南瓜かな 武藤主明
【入選】
ゴロゴロと夫のやうなカボチャかな 平尾 福
生れし子よ南瓜のごとき人となれ 川辺酸模
連れて来し母の手ぬくし地蔵盆 佐伯律子
きちきちのどつちへ飛んでも日がくれる 上村幸三
包丁の身動きできぬ大南瓜 甲田雅子
音たててもの食ふ螇蚸太き顎 齋藤嘉子
フレンチや南瓜スープにかしこまり 那珂侑子
地蔵盆かつて間引のありし村 武藤主明
古志金沢ズーム句会(2024年8月18日)
第一句座
当季雑詠
・鬼川こまち選
【特選】
「魔の山」の秋一夜ごと深みけり 長谷川櫂
溽暑なる野辺切り裂きて新幹線 密田妖子
目指したる生前遺句集星月夜 氷室茉胡
桃食べてけむりのごとき息を吐く 趙栄順
黙祷の鼻にピアスや終戦日 田村史生
傷ひとつなき空残る原爆忌 安藤久美
かなかなやかなかなかなや母逝けり 飛岡光枝
大いなる木陰となりぬ紀伊の秋 玉置陽子
【入選】
帰省子は母の知らなひ香を纏ふ 山本桃潤
死受け入れば生は自由や涼新た 土谷眞理子
七夕や一夜かぎりの竹しなふ 安藤久美
ころりとは逝けぬあはれや羽抜鶏 梅田恵美子
囮追ふ鮎の気負ひを串に刺す 山本桃潤
西瓜食ぶはるかに父のハーモニカ 松川まさみ
高きよりふはりと小鳥展宏碑 泉早苗
ドームの名奪はれしまま原爆忌 安藤久美
母のなき母の病室けさの秋 飛岡光枝
ブルブルと秋のみ空を槍が飛ぶ 花井淳
天の川舟で辿れば美しきかろ 土谷眞理子
火の子抱く火の母親や原爆忌 稲垣雄二
馥郁と白桃傷む夜の底 玉置陽子
母を焼くからくれなゐの秋の風 飛岡光枝
能登きりこブルーシートの夏に立つ 花井淳
・長谷川櫂選
【特選】推敲例
空に墓標海に墓標や敗戦忌 趙栄順
母を焼くからくれなゐの秋の風 飛岡光枝
ころりとは逝けぬあはれや羽抜鶏 梅田恵美子
蟬は鳴きトンボはとぶや終戦日 橋詰育子
六人の敵は送りぬ生身魂 稲垣雄二
【入選】
胸に手を当てれば聞こゆ秋の声 土谷眞理子
白桃を食べてけむりのごとくをり 趙栄順
七夕や一夜かぎりの竹しなふ 安藤久美
母のなき母の病室けさの秋 飛岡光枝
かなかなやかなかなかなや母逝けり 飛岡光枝
火の母が火のわが子抱く原爆忌 稲垣雄二
馥郁と白桃傷む夜の底 玉置陽子
天の川ほとりに栖みて新藁うつ 酒井きよみ
蜩や十一人で母送る 飛岡光枝
第二句座
席題:「踊」、「蜻蛉」
・鬼川こまち選
【特選】
潮風の香り渦なす踊かな 玉置陽子
徹夜をどり暮らし忘れてのっぺらぼう 間宮伸子
避難先より集まりぬ踊の輪 宮田勝
蜻蛉の光零れて楽園に 田中紫春
幽谷の光統べるや鬼やんま 藤倉桂
大土佐に生まれよさこい踊りかな 橋詰育子
【入選】
輪踊りや半拍遅れの園児たち 密田妖子
恐竜の眼が二つあかとんぼ 安藤久美
精霊も家族も総出盆踊り 田村史生
盆踊り後ろについて来しは誰 松川まさみ
踊りの輪タトゥー跳ねたる異邦人 氷室茉胡
踊り子のくるぶし綺麗ゆびさきも 川上あきこ
踊笠ことしは二夜被りけり 泉早苗
杭一本交互に分かち蜻蛉飛ぶ 越智淳子
実盛が萌黄縅か鬼やんま 長谷川櫂
ひとごゑも風に消えゆく踊りかな 安藤久美
少しづつ君へ近づく盆踊り 田村史生
・長谷川櫂選
【特選】推敲例
笠の内見せず女の手が踊る 安藤久美
少しづつ君へ近づく踊かな 田村史生
踊りけり冠灯籠消ゆるまで 飛岡光枝
踊笠ことしは二夜被りけり 泉早苗
【入選】
忘れじと折々すさる踊かな 松川まさみ
この椅子に一睡の幸赤とんぼ 花井淳
少年の誇りとしたり鬼やんま 橋詰育子
避難先より集まりて踊の輪 宮田勝
子を抱きて足で踊るや盆一夜 稲垣雄二
大土佐に生まれよさこい踊りかな 橋詰育子
古志広島ズーム句会(2024年8月4日)
第一句座
・矢野京子選
【特選】
原爆忌猛暑酷暑と言ふなかれ 加藤裕子
八月の炎の中へ黙祷す 高橋真樹子
朝顔に水たつぷりと原爆忌 斉藤真知子
影置いてゆきし人あり原爆忌 今村榾火
暁闇の風ひやひやと原爆忌 長谷川櫂
【入選】
水輪生る蜻蛉が水に触れるたび 加藤裕子
原爆忌あるは日本だけでよし ストーン睦美
けふの汗と嘘をシャワーで流しけり ストーン睦美
みそはぎの花のこぼるる草の市 大平佳余子
退院や二歩三歩ゆく喜雨の中 城山邦紀
火蜥蜴の日本列島秋に入る 長谷川櫂
一歳の姉の小さき墓洗ふ 大場梅子
まだまだとおもひをりしが生身魂 大平佳余子
あの日知る患者の瞳広島忌 瑞木綾乃
朝顔の鉢も吹き飛ぶ雨と風 上松美智子
桃ひとつ夫の帰りを待ちにけり 高橋真樹子
面子遺しヒロシマの子よ原爆忌 加藤裕子
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
桑の実やもう跡形もなき故郷 今村榾火
ただ白き炎となりて遍路ゆく 神戸秀子
八月の炎の中で黙祷す 高橋真樹子
一日の嘘をシャワーで流しけり ストーン睦美
【入選】
山の声風の声聴く墓参かな 矢田民也
キノコ雲見たるその日を語り継ぐ 加藤裕子
孤独なる七万柱広島忌 駒木幹正
あをあをと佐渡の金山けさの秋 安藤文
原爆忌死の意味さへも知らざりき 大場梅子
退院や一歩一歩と喜雨の中 城山邦紀
一歳の姉の小さき墓洗ふ 大場梅子
被爆樹の診察けふも広島忌 矢野京子
朝顔の鉢も吹き飛ぶ原爆忌 上松美智子
樹々もまた苦しみし日々広島忌 矢野京子
壁一枚生死を分かつ広島忌 瑞木綾乃
冷やされて白桃ひとつ夫を待つ 高橋真樹子
ヒロシマの子らのメンコよ原爆忌 加藤裕子
第二句座(席題:秋立つ、西瓜)
・矢野京子選
【特選】
ひと晩は厨で眠る西瓜かな 斉藤真知子
こころにも目あり耳あり秋立ちぬ 大場梅子
妻とゐてけさ秋のこの涼しさは 長谷川櫂
【入選】
谷水に浸ける西瓜と踵かな 駒木幹正
この地球割るがごとくに西瓜切る 安藤文
ポンとよき音する西瓜ぞ三個買ふ ももたなおよ
大雪の水より冷えた西瓜喰ふ 高橋真樹子
三六〇度取りつく島もなき西瓜 ストーン睦美
・長谷川櫂選 (推敲例)
【特選】
幾万の折鶴となり秋立ちぬ 高橋真樹子
死ぬ前に婆に食わせん吾が西瓜 岡村美沙子
西瓜乗せ子を歩かせて乳母車 神戸秀子
【入選】
谷水に浸ける西瓜とわが足と 駒木幹正
ひと雨に森ムンムンと秋立てり 斉藤真知子
秋立つや紅茶の白き碗にさへ 神戸秀子
孫のため畑に育ておく西瓜 瑞木綾乃
水で洗ふ菜はあをあをと今朝の秋 石塚純子
三六〇度西瓜取りつく島もなし ストーン睦美
不出来なら鴉にくれてやる西瓜 矢田民也
古志仙台ズーム句会(2024年7月28日)
第一句座
長谷川冬虹選
【特選】
十薬や今も生家に外厠 武藤主明
八月がくる一塊の岩のごと 三玉一郎
鳥のよに礫のやうに夏落葉 及川由美子
暑ささへ力に変へて百日紅 齋藤嘉子
【入選】
扇風機ときどき眠つてゐるらしく 平尾 福
おぬしなど知つたものかと蟇鳴けり 青沼尾燈子
冷し酒彼奴どこまで行つたやら 青沼尾燈子
やはりをる我に似た奴蟻の列 川辺酸模
この三日源氏にひたる端居かな 川村杳平
龍神の岩かげに鮎湧きゐたり 長谷川櫂
棟梁は柾目の板に大昼寝 宮本みさ子
牛蛙ブレストの脚ぐいと伸び 上 俊一
長谷川櫂選(推敲例)
【特選】
はるばると一生の果てへ昼寝覚 上村幸三
空気燃ゆる音の聞こゆや百日紅 齋藤嘉子
戦争へ敗戦へ死へ水を打つ 三玉一郎
【入選】
夕蝉や氷枕のぬるくなり 阿部けいこ
扇風機ときどき眠りゐるらしく 平尾 福
足はがすやうに歩くや油照り 齋藤嘉子
夕立が過ぎるのを待つホームかな 那珂侑子
落ち口の飛沫煌めき滝となる 佐藤和子
八月がくる一塊の岩のごと 三玉一郎
棟梁は柾目の板に大昼寝 宮本みさ子
被曝地は今も丈余の夏の草 佐藤和子
暑ささへ力に変へて百日紅 齋藤嘉子
庭仕事耳の後ろを汗流る 石川桃瑪
爆心地のうぜんの花駆けのぼる 平尾 福
滝音の近くなりつつ足速む 石川桃瑪
満場の団扇揺れをり名古屋場所 上 俊一
第二句座(席題:蝨、泥鰌鍋、水草の花)
長谷川冬虹選
【特選】
とき卵くるみて鍋の泥鰌かな 川村杳平
存へて恋の話や泥鰌鍋 川辺酸模
壁蝨の字を初めて書くやうごきだす 三玉一郎
蓋をしてきゆうと鳴きしが泥鰌鍋 佐藤和子
蚤にさへ蔑まるるも蝨のさが 長谷川櫂
【入選】
疎まれて強く生き抜く壁蝨ならん 三玉一郎
白抜きの藍の暖簾や泥鰌鍋 川辺酸模
どぢやう鍋山盛り牛蒡のうれしさよ 上村幸三
終はつたぞ皆繰り出さん泥鰌鍋 齋藤嘉子
うじやうじやと放り込みたる泥鰌鍋 佐伯律子
流れきてよどむ藻の花敗戦忌 服部尚子
山小屋の壁蝨の蒲団へ日の光 三玉一郎
長谷川櫂選(推敲例)
【特選】
睡蓮を戻しぬ除染作業員 宮本みさ子
暫らくは眺めてゐたり泥鰌鍋 武藤主明
おそるべき人の欲望泥鰌鍋 川辺酸模
流れきてよどむ藻の花敗戦忌 服部尚子
山小屋の壁蝨の蒲団へ日の光 三玉一郎
【入選】
いまはただ花水草の鉢となり 那珂侑子
道灌も蓑傘置かむ泥鰌鍋 臼杵政治
藻の花の隣にラムネ冷やしあり 平尾 福
田の神や水草の花守りをり 佐伯律子
どぢやう鍋煮えたぎり蓋揺るるかな 宮本みさ子
五分ほどの仏性ありぬ泥鰌鍋 武藤主明
壁蝨の字をを書くやたちまちうごきだす 三玉一郎
うじやうじやと放り込みたる泥鰌鍋 佐伯律子
老し身へ叱咤激励どぢやう鍋 青沼尾燈子
水草の花人知れず山上に 及川由美子
豆腐へと頭隠しぬ泥鰌鍋 武藤主明
穴二つダニの噛み跡紛れなく 平尾 福
古志祇園会句会(2024年7月17日)
※特選は○。櫂先生の選については添削後の句を掲載。
第1句座(10句投句)
長谷川櫂選
○宵祭惜しみて消えぬ提灯よ 稲垣 雄二
○生も死も同じ暗闇岩戸山 上田 忠雄
○正面に炎のごとし長刀鉾 東 一爽
○宵山のなにがし寺の灯に会ひぬ 安藤 久美
○一年の塵からからと古粽 きだりえこ
笹添へて氷一塊鉾見舞 玉置 陽子
四斗樽の水うちまけよ辻廻し 石川 桃瑪
仰ぎ見む長刀鉾は雲の中 玉置 陽子
たをやかに月をゆらして月の鉾 きだりえこ
冠の黄金ゆるるや鉾の稚児 高角みつこ
青春や慣れぬ浴衣の宵祭 稲垣 雄二
土砂降りも天の恵みや鉾祭 神蛇 広
少年は父に習うて鉾の鉦 木下 洋子
木下洋子選
○生稚児の大いなる夏忘れめや 稲垣 雄二
○生稚児に母はさぞ紅差したからう 稲垣 雄二
○保昌山恋の力で動きけり 長谷川 櫂
汗の子を抱く汗の母宵祭 稲垣 雄二
慈雨来たる芦刈山のあたりから 上田 忠雄
長刀鉾眠れる龍の鎮みをり 越智 淳子
若狭より鯖届くころ後祭 上田 忠雄
宵祭惜しみて消えぬ提灯よ 稲垣 雄二
生も死も同じ暗闇岩戸山 上田 忠雄
川風に宵山の熱さましけん 越智 淳子
宵祭釣りし金魚をもてあまし 飛岡 光枝
須佐之男の遊び始めの祭かな 玉置 陽子
きだりえこ選
○祇園囃子音に弔ひや笛太鼓 越智 淳子
○笹添へて氷一塊鉾見舞 玉置 陽子
○全身を八坂へささぐ鉾の稚児 花井 淳
○白扇一本鉾を辻回し 山本 桃潤
○ずずずずと辻ごと回せ一の鉾 田村 史生
○えんやらやえんやらやとや一生すぐ 長谷川 櫂
○薄墨の月美しや鉾提灯 飛岡 光枝
長刀鉾眠れる龍の鎮みをり 越智 淳子
祇園会やまづは御礼八坂はん 越智 淳子
寝入る子へ窓を透かせて鉾囃子 坂元 初男
宵山や笛の始めはゆるやかに 神蛇 広
新町の軒すれすれに鉾帰える 上田 忠雄
鉦の音鉾の垂れ紐踊らせる 石川 桃瑪
洛中や小学校も鉾出して 神蛇 広
うだる世へ雪を一掻き孟宗山 安藤 久美
蟷螂の斧ふり回し夏句会 越智 淳子
神体に命吹き込む暑さかな 三玉 一郎
ギイと鳴る車輪の奥の縄がらみ 石川 桃瑪
保昌山恋の力で動きけり 長谷川 櫂
大綱の声高らかに鉾動く 坂元 初男
氷室茉胡選
○白扇一本鉾を辻回し 山本 桃潤
○生稚児に母はさぞ紅差したからう 稲垣 雄二
○風流の棒一本を振り踊る 長谷川 櫂
○厄もろとも落とす提灯函谷鉾 花井 淳
○鶏鉾車裂けたる暑さかな 長谷川 櫂
生稚児の大いなる夏忘れめや 稲垣 雄二
しづまれる長刀鉾や日は天心 高角みつこ
ぬつと鉾この世かの世のあはひより きだりえこ
生稚児や世の揺らぎにも身をまかせ 谷村和華子
たをやかに月をゆすりて月の鉾 きだりえこ
なつかしき人に会ふのも宵祭 谷村和華子
宵山やいくつの恋の流れゆく 越智 淳子
山鉾の車輪引き立つ木肌かな 土佐 欣也
変はりなき夫の純情保昌山 玉置 陽子
川風に宵山の熱さましけん 越智 淳子
宵山の喧騒抜けて二人酒 上田 悦子
第2句座(10句投句)
長谷川櫂選
○月鉾の月を下ろしてしまふのか 安藤 久美
○天に雲生まれ出づるや一の鉾 神蛇 広
○いま過ぎてはるかかなたを長刀鉾 三玉 一郎
○鉾粽昔の家の香りかな 木下 洋子
○しんかんと鉾は眠りて闇深し 玉置 陽子
今年また落ち着きのない蟷螂山 三玉 一郎
みな同じ団扇見せあふ祇園祭 土佐 欣也
祇園会や瓜も茗荷も京の色 安藤 久美
鉾提灯赤子の顔を照らしけり 神蛇 広
山壱番黒主山へ大かぼちや 飛岡 光枝
昼深し名も宵山の琥珀羮 安藤 久美
大夕立三十六騎みなふるふ 安藤 久美
木下洋子選
○船鉾のうしろ姿を惜しみつつ 高角みつこ
○もう二度と太刀を持つなよ鉾の稚児 稲垣 雄二
○宵山の一夜の髪を結ひにけり 稲垣 雄二
一切は夢と思へど芦刈山 長谷川 櫂
神在すほの暗闇の涼しさよ 長谷川 櫂
六双の屏風飾りて涼みかな きだりえこ
鴨川の鰻も浮かれコンチキチン 稲垣 雄二
四条傘鉾傘の一字の笑ふごと 田村 史生
蕪村翁終焉の地へもどり鉾 玉置 陽子
二階から鉾へ乗りこむ足捌き 高角みつこ
雲間より祇園囃子や鉾進む 山本 桃潤
大夕立三十六騎みなふるふ 安藤 久美
きだりえこ選
○祇園会の瓜も茗荷も京の色 安藤 久美
○鉾町に生まれかなかなかなかなと 田村 史生
○昼深し名もしたたりの琥珀羮 安藤 久美
長刀鉾影もろともに建ち上る 飛岡 光枝
一刀で注連を切りけり夏休み 木下 洋子
長江家を出れば鉾の灯風の中 谷村和華子
月鉾の月を下ろしてしまふのか 安藤 久美
うつしみもやがてかりそめ戻り鉾 谷村和華子
油照り油天神山気負ひ立つ 上田 忠雄
二階から鉾へ乗りこむ足捌き 高角みつこ
あら見事琅玕敷きて辻回す 山本 桃潤
兄弟のいづれ笛方太鼓方 飛岡 光枝
身の内の奥の随まで鉾の鉦 谷村和華子
宵山の一夜の髪を結ひにけり 稲垣 雄二
かるがると空ごと回す辻回し 三玉 一郎
木の国の木を高く組み月の鉾 稲垣 雄二
宵山や涼しき声の人の傍 神蛇 広
氷室茉胡選
○全共闘闘士なりしも鉾のひと 長谷川 櫂
○うつしみもやがてかりそめ戻り鉾 谷村和華子
○我が家の神の宿りて古粽 飛岡 光枝
争ひの絶えぬ世界へ長刀鉾 三玉 一郎
長刀鉾影もろともに建ち上る 飛岡 光枝
棒振つてこの世を祓う祭せん きだりえこ
船鉾のうしろ姿を惜しみつつ 高角みつこ
初蝉や真木の松にとまりけり 上田 悦子
保昌山みな神妙な顔で行く 田村 史生
鉾粽歩き歩きて手に入れり 高角みつこ
木の国の木を高く組み月の鉾 稲垣 雄二
京に夏長刀鉾の立ちてより きだりえこ
古志金沢ズーム句会(2024年7月21日)
第一句座
当季雑詠
・鬼川こまち選
【特選】
人形浄瑠璃あふるる涙涼しかり 藤倉桂
あをあをと月しづくせよ洗ひ髪 玉置陽子
白桃や肉体しんと暗かりき 長谷川櫂
九十媼ゆるり作れりかき氷 越智淳子
万緑の湖満々とシャワー浴ぶ 山本桃潤
煮えたぎる渦となりたる祭かな 趙栄順
貝殻の真白き夏を惜しみけり 長谷川櫂
【入選】
ある農夫青田も見ずに逝かれけり 酒井きよみ
鑑真と旅し蓮の裔といふ 田村史生
虫干の女に化けし日記かな 宮田勝
約束の蛍を待ちし幾夜かな 松川まさみ
百年の孤独へ落つる昼寝かな 趙栄順
涼やかに若き僧なる絵解きかな 泉早苗
万年を銀河の底に住む我ら 泉早苗
若竹の若さにむせぶ夜もあらむ 安藤久美
隠沼へ光のつぶて翡翠飛ぶ 玉置陽子
手ぬぐひを枕にちよつと昼寝かな 飛岡光枝
人形焼き真顔の並ぶ暑さかな 飛岡光枝
荒梅雨や地球の怒気の濁り川 松川まさみ
京なれや胡瓜もみにも鱧の皮 泉早苗
身に巣くふ鬼と遊ぶや緑の夜 藤倉桂
・長谷川櫂選
【特々選】推敲例
人間に蝉が止まりて鳴きにけり 山本桃潤
若竹の若さにむせぶ夜もあらむ 安藤久美
人形焼き真顔の並ぶ暑さかな 飛岡光枝
【特選】
手にのせてかの世の蛍とも知らず 安藤久美
スマホより祇園囃子のこぼれ来し 近藤沙羅
黄金の月しづくせよ洗ひ髪 玉置陽子
炎熱のこんぺいとうに角いくつ 玉置陽子
荒梅雨や地球の怒る濁り川 松川まさみ
【入選】
河童忌や愚かに生きて寿 梅田恵美子
石斛の花あつけなく一生過ぐ 飛岡光枝
やはらかき闇をこぼるる蛍かな 安藤久美
「百年の孤独」とともに夏休み 田村史生
ふぐの子の粕漬辛しビール酌む 花井淳
虹になり損ね七色金平糖 玉置陽子
第二句座
席題:「夏の果」、「火取虫」
・鬼川こまち選
【特選】
寂しきはつひに佳句なき夏の果て 田中紫春
野外劇飛び入りの火が舞はじむ 酒井きよみ
逝く夏や狭庭は荒野となり果てて 間宮伸子
戦争の火種は尽きず夏の果 松川まさみ
いかにして放たん我の火取り虫 田中紫春
【入選】
生きるとか死ぬとか無くて火取虫 藤倉桂
火取虫どこかわたしに似てをらん 近藤沙羅
歩みゆく鉄道員へ灯取虫 花井淳
もう一本ジンの封切る夏の果 花井淳
非常口のネオン占領火取虫 川上あきこ
抜け出せる算段やある火取虫 泉早苗
能登はまだ彼の日のままに夏の果 清水薫
この山の火蛾の遊べる寺ならん 橋詰育子
座礁せしごとく昨夜の大蛾あり 長谷川櫂
火を目指しめくらめつぽふ火取虫 藤倉桂
金粉を蒔く火取虫ならば来よ 安藤久美
手なれれば金粉こぼさず火がそとへ 酒井きよみ
・長谷川櫂選
【特選】推敲例
もう一本ジンの封切る火取虫 花井淳
若き日やテニスコートを火取虫 間宮伸子
物憂げなシャンソンを聞く火取虫 間宮伸子
コンビニに若者減りぬ火取虫 川上あきこ
【入選】
眠りよりさめて独りや夏の果 橋詰育子
死してなほ生きているかに火取虫 梅田恵美子
突掛の先で寄せたり昨夜の火蛾 安藤久美
淋しさに集まり来しか灯取虫 橋詰育子
火取虫一差し舞えば旅の友 鬼川こまち
掃き集め昨夜の真白き火取虫 飛岡光枝
ネット投句年間賞(夏)は森恵美子さん
*年間賞 | ||
向日葵や片乳の母生きたまへ | 広島 | 森恵美子 |
*次点 | ||
巣立鳥森は緑の大き籠 | 岐阜 | 三好政子 |
あの顔で清流が好き山椒魚 | 京都 | 氷室茉胡 |
*候補 | ||
殺戮の三千世界仏生会 | 奈良 | きだりえこ |
うららかに伸びする猫の長さかな | 石川 | 松川まさみ |
さう君が生きやうとしたあの夏へ | 神奈川 | 三玉一郎 |
飛魚の翅を切られて売られをり | 兵庫 | 吉安とも子 |
一滴に深山開く新茶かな | 和歌山 | 玉置陽子 |
風鈴も国に捧げし時代あり | 愛知 | 稲垣雄二 |
万緑の中へと眠りゆく母よ | 大阪 | 安藤久美 |
にぎやかや青鷺の巣の木の天辺 | 北海道 | 芳賀匙子 |
古代蓮眠りさめしも戦なほ | 千葉 | 池田祥子 |
タワマンに吹き上げられし蝉一匹 | 東京 | 岡田定 |
ラブチェア来たり八十路の六月に | 長野 | 金田伸一 |
旅人や弥陀の御手に三尺寝 | 愛知 | 青沼尾燈子 |
原始より生ふる桂か風薫る | 京都 | 諏訪いほり |