#005想定外(木下洋子)
5月12日の大阪府のコロナウイルスの新規感染者数は851人。1000人を超える日が続いていたことを思うと多少減少傾向にあるかと思うが、40代~90代の男女50人が死亡している(過去2番目に多い)。入院先が見つからず待機中に急激な病状悪化により亡くなっている人も含まれる。重症者は389人で前日(5月11日)から12人減少し、重症病床使用率は97.5%になった。ただし重症病床が足りずに、重症者44人が中等症病床で治療を受けている。
これを「医療崩壊」と言わずになんと言うのだろう。「医療崩壊寸前」「逼迫」ではない。吉村知事は、一年以上コロナ対策に懸命に取り組んできたと思う。吉村氏の説明は熱意を感じさせたし、府民も信頼を寄せ自粛してきたと思う。そのうち収束に向かうと思っていたら、今年に入って、コロナウイルスの変異株が世界中に広まり、日本、特に大阪はあっという間にこの惨状である。
結果論かもしれないが、2月末で緊急事態宣言を1週間前倒しで解除したのは間違いではなかったか。確かに感染者数は2月28日時点で、重症者は90人。重症病床使用率は40.7%になっていた。経済が立ち行かなくなると自殺者が出ると言われて、そうかなと思った。が、解除後あっという間にリバウンドした。
従来型なら解除しても何とかなったかもしれないが、変異株の感染力は「想定外だった」と府の幹部が言っていた。この「想定外」の発言にショックを覚えた。国や自治体のトップは、この「想定外」を考えておくのが仕事ではないのか。東日本大震災で、原発事故を起こした東京電力のトップも「想定外の大地震と災害」と発言した。クリーンで安全と言い切っていたのは何だったのか。「想定外」で弁明されたら犠牲者は救われない。
今回、日本の感染症に対する医療体制が十分でないこと、ワクチンも国内で速やかに作れる体制ではないこと、政府のリスク管理の脆弱さが露呈した。「想定外」を考えていない国で、そのうち何とかなるだろうと問題意識を持たなかった自分を反省している。「想定外」に対応できる国になるには、一人一人が問題意識を持たなければならないと思う。(2021年5月13日、木下洋子)