古志名月ズーム句会(2020年10月1日)
長谷川櫂選
*第一句座
【特選】
国越ゆる大河メコンの良夜かな 西川遊歩
岩陰に眠る人魚や月の海 上田雅子
望の夜は女人にかへるをみなへし 神戸秀子
草ひばり髭長々と良夜かな 藤英樹
鮒鮓の重しの沈む良夜かな 稲垣雄二
【入選】
すいつちよも来ているらしき月の庭上田雅子
明日上げる棟木の匂ふ良夜かな 曽根崇
有明や墓場のごとく副都心 北側松太
女郎蜘蛛月を抱きて眠りおり 高橋 慧
五剣山くつきり晴れて今日の月 曽根崇
月光や重油にまみれあはうどり 北側松太
瓜坊の田を駈けめぐる良夜かな 川辺酸模
二月堂南都一望良夜かな 密田 妖子
柚子みそを練る間に月の上りくる 飛岡光枝
名月や庭木をわたる蜘蛛の糸 越智淳子
栗羊羹大きな月が転がり出 玉置陽子
暗き水に白き花咲く良夜かな 川村玲子
どの月もなつかしけれどけふの月 齋藤嘉子
この島の倭寇の裔と月祀る 曽根崇
蜜柑の樹に蝶のねむれる良夜かな 近藤沙羅
満月や漁礁となりし戦闘機 上田雅子
田の神のとぼとぼ帰る月の畦 岩井善子
名月に晒すや藍の布一反 稲垣雄二
巣籠もりてわが縁側の良夜かな 澤田美那子
完璧な月に乾杯ひとり酒 木下洋子
雲がちの二夜三夜さてけふの月 葛西美津子
峙てる能登の奇巌や上り月 花井淳
リモートに顔の揃へる良夜かな 園田靖彦
月光に洗はれてゐるこころかな 斉藤真知子
鳰鳥は疾うに寝たるか今日の月 川辺酸模
湯けむりの向かうにましら月仰ぐ 齋藤嘉子
明月や沙漠に植ゑし木々の上 松川まさみ
月追ひて遠く旅するわれらかな 菅谷和子
*第二句座
【特選】
のけぞりて今日の月みる古女房 佐々木まき
月光にまみれて育つ寒立馬 西川遊歩
香しき大地を蹴つて月上がる 岩井善子
瑞巌寺月夜なれども闇深く 北側松太
母鹿に潜りてねむる良夜かな 安藤久美
名月や真昼のごとく大極殿 安藤久美
【入選】
がうがうと窯は火を噴く良夜かな 稲垣雄二
ことごとく草木ものいふ月夜かな 仲田寛子
そば枕母と並びて月に寝る 丸亀葉七子
ひらひらと蝶のより来る良夜かな 藤英樹
ベランダで一人の月見お隣も 葛西美津子
まんまるの月の楽しき今宵かな 越智淳子
芋もなく団子もなくて月見かな 斉藤真知子
月の宴化けそこなひの狸ども 石川桃瑪
月を待つ御堂の古き仏たち 川辺酸模
十五夜の客のマスクの白さかな 宮本みさ子
小面をつけしグレコやパリの月 大平佳余子
杖曳いて十歩行っては名月や 岡村美沙子
星ぼしをしたがへ月は天空へ 近藤沙羅
赤味噌や三河も奥の今日の月 稲垣雄二
病む人に月の障子をひらきけり 大場梅子
満ちてゆく月に匂ひのありにけり 斉藤真知子
蓑虫も顔をださんか月今宵 大平佳余子