俳句の相談 句またがりについて
【相談】
句またがりは季語、名詞などを分断しない(「桜」であれば、「さく/ら」と上五、中七、下五にまたがらせない)ということのほか、どのような点に注意したらいいですか。
また句またがりの句はどう読めばいいですか。たとえば、
算術の少年しのび泣けり夏 西東三鬼
この句は、
算術の少年しのび泣けり/夏
と読むか、
算術の少年/しのび泣けり夏
と読むのか。「しのび泣けり」の「i」の反復、また「泣けり夏」の「na」の反復を考えると、「しのび泣けり夏」と読むのがいいような気もします。
また句またがりの場合、中七の途中で切れ=間を作ってしまうと、音のつながりの効果が生かせなくなるのでしょうか?
【回答】
「句またがり」について、あれこれ悩んでおられるようですが、はじめに申し上げておくと、この問題についてもいろいろ考える必要はありません。「考える」ということは、理屈を組み立てているということ。ご存じのとおり、俳句は理屈でできるわけではありません。句またがりの句をどう作るかも、どう読むかもすべて直感=センスに任せてください。そこでその人の俳句のセンスが問われることになります。
まず句またがりの句について注意すべきことなど何もありません。例にあげておられるような、一つの季語を5・7・5の切れ目にまたがらせていけない、ということもありません。こういう細かい規則をいろいろ作ってゆくところが俳句をする人のよくない性癖です。すべて直感=センスに任せて、あとはできあがった句がいいか、ダメかだけみればいい。
次に句またがりの句の読み方についても、相談にあるように細かく考える必要はありません。これも直感=センスで読めばいいということです。したがって、三鬼の句も、10人いたら10とおりの読み方があります。その読み方でその人の俳句に対するセンス、考え方(型式を重んじる人か、意味を重んじる人か、など)がわかるということです。
ただ一つ知っておいたほうがいいことは、『一億人の「切れ」入門』にも書いたことですが、俳句には①5・7・5という型式の区切れ(節)と②言葉の意味の区切れ、二つの区切れ(節)があるということです。三鬼の句でいえば、
算術の/少年しのび/泣けり夏
これが型式の区切れであり、
算術の少年/しのび泣けり/夏
これが言葉の意味の区切れです。この二つの区切れを重ね合わせると、
算術の/少年/しのび/泣けり/夏
となり、このどこで切って読んでもいい。そして、そのどこで切って読むかで、その人の俳句に対するセンス、考え方がわかってしまうということです。
じつは句またがりでなくても、すべての俳句は①型式の区切れと②意味の区切れのが織り合わさってできる織物のようなものです。句またがりの句だけが特別なのではありません。