露の玉 「古志」2018年11月号から
今年の古志の月見句会は高野山で開いた。九月二十三、四日、宿舎は宝城院。朱塗りの根本大塔に近い宿坊である。
これまでずっと月見句会を開いてきた比叡山を学びの場、いわばカレッジとすれば、高野山は密教のディズニーランド。同じ密教の聖地といっても雰囲気がまるで違う。いやに生々しい。それは開祖の最澄と空海の人柄の相違、あるいは京・近江と大阪・紀州の風土の違いかもしれない。
その夜、句会の最中、台風で危ぶまれたものの、みごとな月が現れた。村松二本さん、三玉一郎さんが真正面に並んでいたので「一郎、二本」と前書きして、
けふよりは高野聖や露二つ 櫂
二人ともふだんから修行僧のような風貌をしている。翌朝の句会でも真正面に二人がいる。そこで、
目の前にまた現れし露の玉 櫂
五日後の三島句会では、そこにいた藤英樹さんも加えて、
句に励む三人の聖露の玉 櫂
二週間後、鎌倉句会の二本さんの句に、
行乞の聖たり得ず温め酒 二本
こうした句を詠み合うのも俳句の楽しみ。それどころか俳句の根本にかかわる。
あとの二人から何の音沙汰もないのはこの秋の淋しさの一つ。留守宅とは知らず、おいと声をかけてしまったようだ。といって返答を求めているのではない。返答は間髪入れず、これが肝要である。
高野山句会の句からいくつか。
なまぐさき空海の書や山は秋 沙羅
空海にたぶらかされて今日の月 二本
億年の一日の月を坊泊り 久美
長き夜や襖挟んで鬼眠る 雄二
石ころか露ひと粒かこの身体 京子
大杉の巨大な秋の骸かな 淳子
名月や立ち上る石眠る石 光枝
身中の虫もいで来よけふの月 佐幸
騙さるる身の法楽やけふの月 りえこ
高野山大きな秋の来てゐたり 玲子
清々しき男のごとしけふの月 一爽
みろく石饅頭となり月の宿 洋子
瞑想といふ山霧の如きもの 美那子
(「古志」2018年11月号、「俳句自在」)