UFO says:2013年4月3日 at 7:28 AM

台北遊歩④
海の細道・台北俳句会+旅話
西川遊歩
台北の国家戯劇院で観た「昆劇」は、衝撃の中国ミュージカルであった!
前夜、小籠包のメッカ鼎泰豊(本店)で食べ過ぎて、ホテルまで歩いて帰ることにした。雑踏を抜け、美しい並木を歩いていくと蒋介石が眠る中正紀念堂に差しかかり、大きな劇場が二つ見えてきた。国家戯劇院(1526席)と国家音楽庁(2074席)が広場を挟んでそそり立つ。「この劇場で何か観てみたい!」と瞬時に思った。演目よりシアターの魅力が先の観劇である。
ホテルのコンシェルジュに「国家戯劇院で、何をやっていますか?」と尋ねたら「上海昆劇歌劇団の公演、土曜の夜の演目は「獅吼記」」と即答。芝居が分かるか、分からなくて退屈するか、迷ったが、劇場を見学できればそれでよし、と考えて二番目に高い料金の席を買う。
シャンデリアのロビーは人で溢れ、中国本土から来た一流の歌劇団への期待を感じさせる。解説パンフレットを売るブースに「英語版解説はないですか?」と聞いたら「残念ながらありません」。「では、簡単に「獅吼記」のストーリーを教えてください」と聞く。すると、若い三人(男性と女性2人)のスタッフは、真剣にどう説明すべきか議論し始めた。
「夫婦間の何のことはない物語だが、せりふが面白いコメディ」「浮気者の夫がいて、それを奥さんが怒って・・・」とても上手な英語だ。しかし、「演目を簡潔に即、語れ、と突然言われても難しい」「分かっているけど」など、やり取りがあり、三人が「要するに女の人は強い、妻は怖い!ということが分かる歌劇なの、字幕も出るし、歌も心地よいから楽しめると思います」
客席は満員。オペラハウスのように、両サイドの階上にはバルコニー席もある。幕が上がり、流麗な音楽とともに甲高いせりふの主人公が舞台に登場。英語の字幕はなし、北京語のみ(舞台のせりふは江南の方言が多いという)である。が、冒頭の字幕は私にも理解できた。
春宵一刻値千金 花有清香月有陰 歌管楼喜声細細 鞦韆院落夜沈沈 蘇東坡の有名な詩「春夜」で舞台の景色を語る。蘇東坡自身も恐妻家の友人として登場するのが愉快だ。
女性の観客がとても多く、奥さんが浮気者の旦那を面白おかしくとっちめるシーンでは、共感の歓声、拍手喝采・・・。後ろの女性三人組の笑い方、反応の仕方が面白く、もう主人公の柳氏になりきって劇に入り込んでしまっている。さざ波のごとく、途切れることなく笑いがつづく。京劇のようなアクロバティックな動きは無いが、優雅な身のこなし、舞い姿、歌唱力は訓練のたまもの!と感じさせるシーンの連続。とくに主役の女形の目の力とひとつひとつの仕種に圧倒的な迫力と魅力を感じた。蘇東坡先生も俗人で、恐妻家の仙人もだらしなく、言われたとおり「女は、妻は、強し」が身に沁みる夜でありました。
帰国して、昆劇(昆曲)について調べるが大苦戦。数年前に、坂東玉三郎が、蘇州昆劇歌劇団に合流、「牡丹亭」に出演して、好評を博したことは記憶に新しい。が、「牡丹亭」が昆劇の代表演目であったとは知らなかった。今回の台湾旅行で最も楽しい刺激的な観劇体験で、その勢いで5月に来日する京劇の東京公演にも同じ顔ぶれで出かけることになった。
台北句会の10句
雪なき夜は何して遊ぶ雪女郎 廖運藩
空腕の張三李四も大根引 呉文宋
寒波来るやっと陽の目を見る冬着 劉竹村
寒波くるあなたの枕抱き締める 徐青春
シクラメン深夜のひそひそ話かな 陳蘭美
寒波来る犬が星見て大欠伸 宇佐美美貴子
一塊の香の一撃や野水仙 西川遊歩
くれなゐの莟ひらいて梅真白 川村玲子
一本を風呂吹き大根子だくさん 飛岡光枝
煩悩の蛇ぬくぬくと冬ごもり 長谷川櫂
