古志金沢ズーム句会(2023年12月17日)
第一句座
当季雑詠
・鬼川こまち選
【特選】
何もかも話してくれし蜜柑かな 土谷眞理子
あをあをと床引き摺りぬ懸蓬莱 玉置陽子
空深く戦の轍去年今年 松川まさみ
生き抜きて灰美しき雪景色 山本桃潤
裸木に面影の立つ花水木 山本桃潤
冬晴れやこの青き空侵すまじ 田中紫春
鮟鱇に残るは口よ何か言へ 稲垣雄二
弱音とも知らで吐きけり冬の虹 松川まさみ
薔薇と盛る花弁ひとひら鰤を食ふ 稲垣雄二
妖精の眠れるポインセチアかな 氷室茉胡
桃源郷の入口さがす夢はじめ 酒井きよみ
羽子板市翔平聡太初音ミク 花井淳
【入選】
煤掃くや忙中閑話かすてゐら 泉早苗
底冷えや干鱈の塩のはらはらと 玉置陽子
冬霧や虚空に浮かぶ大き船 土谷眞理子
陽の光零れはじけて島みかん 田中紫春
幼子の寝息を聴きに来る青女 田中紫春
初鏡いまはむかしの夢ばかり 趙栄順
凍星はガザもハマスも照らしをり 田中紫春
コンビニの前に無言の日向ぼこ 稲垣雄二
冬の蝶まとひ付くなり太股に 藤倉桂
沈黙は耳をつんざく寒夜かな 宮田勝
桜落葉人に逢ひたき香りして 川上あきこ
生り過ぎし柚子や前途の定まらず 川上あきこ
乱読を積み上げ積み上げ年歩む 花井淳
馥郁と枯野を抱く女かな 趙栄順
冬萌やダイヤモンド婚よ私たち 間宮伸子
冬蝶や羽もこぼれんばかりかな 橋詰育子
人訪ふも監視カメラや空つ風 藤倉桂
白熊てふ名字の人と温め酒 飛岡光枝
糶られゆく数多の牛や冬の朝 土谷眞理子
去年今年西へ西へと武器運ぶ 宮田勝
ふかし芋飢えし戦後の大家族 密田妖子
生き死にの話に弾む年の暮 清水薫
青竹のとどくかぎりや煤払ひ 橋詰育子
ふる里の土をまとひて大根来る 清水薫
・長谷川櫂選
【特選】推敲例
堆き母の襁褓と冬ごもり 飛岡光枝
たぢろぎぬ風の怒りの波の花 宮田勝
マラソンは冬青空へ去りゆけり 田村史生
馥郁と枯野を歩む女かな 趙栄順
桃源の入口さがす冬の山 酒井きよみ
【入選】
水仙の一輪に母笑み賜ふ 飛岡光枝
何もかも話してくれし蜜柑かな 土谷眞理子
懸蓬莱あをあをと緒を引き摺りぬ 玉置陽子
戦止まぬすさまじき世に冬至南瓜 鬼川こまち
ゴンドラの唄華やかに冬の川 間宮伸子
煤竹提げて十人夢殿へ 田村史生
初鏡いまはむかしの夢ばかり 趙栄順
裸木に花のおもかげ花水木 山本桃潤
老犬の無には敵はず日向ぼこ 山本桃潤
去年今年会はねばならぬ人の数 川上あきこ
沈黙の耳をつんざく寒夜かな 宮田勝
語りあふ友あればこそ日向ぼこ 橋詰育子
雲暗澹道暗澹と年の暮 鬼川こまち
鬼柚子を抛りこみたる柚子湯かな 泉早苗
かんと鳴る墨を買ひけり果大師 安藤久美
敬老パス使ひ放題冬日和 氷室茉胡
お湯で割るスコッチウヰスキー独り居て 花井淳
白熊と名乗る男と温め酒 飛岡光枝
昆布〆の鱈の分厚し年の市 酒井きよみ
糶られゆくみごとな牛や冬の朝 土谷眞理子
冬麗や蝶より軽き骨拾ふ 稲垣雄二
どの木ともあらず木の葉の降る日かな 橋詰育子
着ぶくれて浮世の果てへぷかぷかと 松川まさみ
赤ちゃんも入れて一族餅を搗く 山本桃潤
髭もあり威厳のための懐手 間宮伸子
存へて今日も炬燵に居眠りす 田村史生
大晦日戦火をさまる気配なし 泉早苗
生き死にの話に笑ふ年の暮 清水薫
青竹のとどくかぎりは煤払ふ 橋詰育子
ふる里の土をこそぎて大根来る 清水薫
第二句座
席題:「息白し」、「去年今年」
・鬼川こまち選
【特選】
アフリカは遠しキリンは息白し 稲垣雄二
よく喋る子の白い息は機関銃 山本桃潤
息白く競ひて磨くガラス窓 安藤久美
み熊野の真闇育てて去年今年 玉置陽子
息のなき子どもを抱く息白く 趙栄順
半世紀俳句恋して去年今年 田中紫春
師を信じ励む心や去年今年 橋詰育子
大いなる闇を枕に去年今年 飛岡光枝
百万石の土産話よ息白く 安藤久美
息白し追はるるものは追ふものに 宮田勝
【入選】
幾人のえにしと別れ去年今年 泉早苗
火の始末消灯終へて去年今年 越智淳子
去るものはみなひらめきて去年今年 趙栄順
はひふへほ息白きこと確かめる 田村史生
去年今年氷らぬものに空の青 長谷川櫂
懸命に見たもの言ふ子息白く 近藤沙羅
ぬばたまの夜のしづかさや去年今年 松川まさみ
この電車のがせば大変息白し 間宮伸子
病ぬけせしこと友に息白く 酒井きよみ
遠くから母見つけし子息白し 酒井きよみ
一言も無き通夜の帰りや息白し 川上あきこ
星々は戦に遠く去年今年 安藤久美
直立の日銀守衛息白く 密田妖子
文机にルーペ定位置去年今年 松川まさみ
丸ビルから新丸ビルへ息白し 花井淳
たくましきをのこ壁ドン息白く 田中紫春
白息の挨拶しあふごみ置き場 藤倉桂
・長谷川櫂選
【特選】推敲例
ラグビーのボールぶるぶる息白し 間宮伸子
戦争の血の手がつなぐ去年今年 稲垣雄二
大いなる闇を枕に去年今年 飛岡光枝
【入選】
孵りたるちさき目高と去年今年 鬼川こまち
白息を比べ行くなり中学生 密田妖子
道尋ぬ我が息白し相手また 越智淳子
身の内にチューブ通せぬ去年今年 鬼川こまち
息白く競ひて磨くガラス窓 安藤久美
主婦業のいつ終はるやら去年今年 氷室茉胡
み熊野は真闇育てつ去年今年 玉置陽子
嫁坂を犬とわたしと息白く 泉早苗
怒涛なす平和の祈り去年今年 松川まさみ
白息を浴びて赤ん坊腕の中 玉置陽子
歩行器を離れて夫の息白し 鬼川こまち
師とともに励む心や去年今年 橋詰育子
息白く挨拶しあふごみ置き場 藤倉桂
泡盛の甕ふつふつと去年今年 飛岡光枝