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俳句的生活

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作成者アーカイブ: mitsue

飛岡光枝 says: 2012年8月10日 at 7:54 PM

俳句的生活 投稿日:2012年8月10日 作成者: mitsue2012年8月11日

(一句に学ぶ)002

良夜かな赤子の寝息麩のごとく    飯田龍太

 昭和五十年に立風書房より出版された作者の第八句集『今昔』所収の一句です。小さな寝息を立てて眠る赤ん坊の姿に寄せて、十五夜の安らかな世界を描いています。

 この句の眼目は「麩のごとく」という比喩にあります。赤子の寝息が麩のようだとは、なんと新鮮で驚きに満ちた例えでしょう。

 比喩を用いた句は数多くあります。その中には、物や事柄を何かに例えると、それだけでなんとなく詩的な印象を生みだすからといった安直な句も多いのではないでしょうか。

 俳句の比喩はまず、当たり前ではいけません。揚句の「赤子の寝息」を、穏やかな繰り返しのリズムに着目して、波や風に関する語で例えたらどうでしょうか。「麩のごとく」の効果に遠く及ばないばかりか、ややもすると、慣用句(例えば『光陰矢のごとし』)のようなよくある表現に留まってしまうのではないでしょうか。
この句のように、読んだ人が驚きを感じながら、なるほどと頷くような比喩でなくてはいけません。

 さて、そのような比喩はどのようにしたら生まれるのでしょうか。それは、俳句を詠むうえでの基本中の基本、物事をよく見ることから始まります。物事をよく見て描くことを心がけていくと、そのものの本質に行き当たります。そして、それのどこに自分が感動したのかが見えてきます。そこから生まれた比喩こそが、読んだ人に感動を与えるものになりえるのです。

 もう一つ、掲句には作句の大きなヒントがあります。この句は「良夜かな」と「赤子の寝息麩のごとく」の取り合わせでできています。中七下五の比喩がいくらすばらしいからといって、どの季語にでも合うということではないのは言うまでもありません。「良夜」という季語によってこの比喩は最大限に活かされて、一句の心安らかな世界を醸し出しているのです。
 

飛岡光枝 says:2012年2月3日 at 7:36 PM

俳句的生活 投稿日:2012年2月4日 作成者: mitsue2012年3月23日

 木下洋子さんの第一句集『初戎』(花神社)を読みました。

絵筆置きあらと思へば春の雪

 この句から始まり、春、夏、秋、冬、新年を二回りする構成は軽やかで、生き生きとした247句が並びます。読み進むうちに、やはり木下さんはとても人間が好きなんだなという思いに至りました。

 夜明けから夫婦でつくる草の餅
 休まれし人の分まで花詠まん
 町ぢゆうで守つてをりぬ座禅草
 貰ひたる柚子ありがたき柚子湯かな
 冬帽子桜の山を見回りに

 どの句も人への愛情に溢れ、人に寄りそって詠まれています。その愛情は、また、虫や動物、植物へも注がれます。

 花びらにしばし休むかあめんぼう
 どこまでも揚がるつもりの雲雀かな
 青梅や梅酒になるか梅干か
 どんぐりの一つ一つに未来あり
 猫じやらしあたたかさうに枯れてをり

 そして、今生、一緒に過ごしているすべてのものに。

 風鈴のやつと鳴りたるうれしさよ
 凩にさらはれさうなラーメン屋
 雪の雲こらへきれずに降りだしぬ
 若菜粥五臓六腑よありがたう

 みなが陥り易い小利口な表現の誘惑を軽々と飛び越えて、森羅万象への愛情を素直に大らかに詠います。木下さんの目指す俳句は、親しんでいる狂言に通じるものがあるのかもしれません。

 お腹から声で笑はん初稽古
 できないと言へばできると初稽古

 そして、もうひとつ。何度も句座を共にしてきた私には、愛情深い木下さんの句はともすればその思いがストレートに出過ぎる印象がありました。でもこの句集ではみごとに思いが昇華されて、普遍的な佳句が並びます。「句集を編む」ことの意義を改めて感じさせてくれる一冊でもありました。

 人波や我も飛び込む初戎

飛岡光枝 says:2012年1月31日 at 6:26 PM

俳句的生活 投稿日:2012年2月1日 作成者: mitsue2012年2月1日

◆俳句の質問   003

われもまたそつと加はる夜釣かな   信 
 似あふ似あはぬ問はぬ夏帽     玩亭
車やる広野はるかに風立ちて     乙三

 歌仙に参加するようになってまだ一年足らずですが、長句と短句の駆け引きがとても楽しい。掲げた3句は大岡信さん、丸谷才一さん(玩亭)、岡野弘彦さん(乙三)が巻いた「夜釣の巻」(『歌仙の愉しみ』岩波新書)の発句と脇と第三です。俳句は発句(長句575)から誕生したわけですが、短句77もここちよいリズムがあり、こちらはこちらで単独で発展していってもいいのではと思っていますが、そういったことはないのでしょうか。

 

 

  • kai says:

     

    2012年2月1日 at 1:35 AM (Edit)

     

    【回答】
    たしかに俳句は連句の長句575の形をしています。これは俳句が「連句の発句(長句)」の独立したものだからです。これに対して脇(連句の2句目)のような短句77がそれだけで独立した文芸になることはありませんでした。これから先はどうか? ないでしょう。

    そう考えるのには理由があります。連句をすればすぐわかるとおり、長句と短句では詠むときの感じがちがいます。一言でいえば短句は気軽に詠めるけれども長句はちょっと構えなくてはいけない。

    なぜかというと、77のリズムの短句はものごとを描写すればできるのですが、575のリズムの長句を詠むには気合いみたいなものがいる。その気合いによって格調が生まれるわけです。

    俳句は発句が独立したものですが、発句には季語と切字が必要です。この季語と切字で発句はいよいよ格調高くなる。これこそ発句が独立して俳句になる原動力だった。短句にはこの格調=原動力が欠けています。

    だからといって短句を軽んじているのではありません。短句には短句の大事な働きがあります。早い話、短句がなければ連句は前へ進めません。みごとな短句の一例をあげておきます。「市中の巻」から。

    さまざまに品かはりたる恋をして   凡兆
     浮世の果は皆小町なり       芭蕉

読売新聞「四季」から

今朝からは春の水なり漱ぐ     下坂富美子

 春の水といえば春の野山にあふれる水のこと。この句は蛇口からほとばしる水道の水に春の水を感じた。まだ手を切るように冷たいけれど、きのうと違う水の感触。作者の思いは水道管をたどって春の野山へとさかのぼっていっただろう。『パピルス』

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