月の山 「古志」2019年10月号から
半歌仙「アジアの奥の月見」
【初折の表】
発 ゆきゆきてアジアの奥に月見かな 二本
脇 台風一過青空市場 遊歩
三 新米も水も薪も積み込んで 二本
四 深みにぬかる象の前足 りえこ
五 炎天に石積み上げてピラミッド 櫂
六 金庫破りはヘヤピンひとつ 英樹
【初折の裏】
一 爆音を轟かせ去るランボルギーニ 一郎
二 くどき文句は今日もアドリブ 英樹
三 相方を尻に敷いてる漫才師 二本
四 星もきれいな通天閣よ りえこ
五 凩におでんの屋台軋ませて 英樹
六 定年の日の花束重し 美津子
七 踏破せんおくのほそ道六百里 光枝
八 月の涼しき水の大垣 二本
九 時々は遊びに来たれ山の猿 善子
十 黄金まばゆき涅槃図の寺 英樹
十一 月山の雪まだ残る花吹雪 英樹
十二 庄内平野一面の春 遊歩
今年の月見句会は九月十四、五日、月山の麓、志津温泉で開いた。午後、橅の林の中にある自然博物園で二座の句会、志津温泉の宿で夕食のあと、半歌仙を巻いた。発句は句会で特選だった、
ゆきゆきてアジアの奥に月見かな 二本
巻き終わって宿の外に出ると、みごとな十六夜の月。来年も十月三、四日、宿は変わるが、月山で行う。
では月山月見句会から。
口あけて地獄見せゐる蓮の実 りえこ
越えてゆく山も幻けふの月 一郎
ひとすぢの水にしたがふ秋思かな 美津子
月山の月の光を草枕 善子
死の山の月山指して鳥渡る 遊歩
浮草の紅ゆるる水の秋 光枝
熊の母皮となりてもおそろしや 玲子
ときをりは蛇となりけり月の僧 英樹
(「古志」2019年10月号、「俳句自在」転載)