吉野山花の句会 2018年4月7、8日
・4月7日夜の句会
☆岡野弘彦選
【特選】
花の茣蓙かの世の人の席あけて 嘉子
天空へ花盛りあげて奥千本 豊
佐保姫の裔をわが子と賜りぬ 嘉子
【入選】
ひとひらに心ただよふ花ふぶき 悦子
もののふの魂鎮めてや花の山 豊
その奥の花を見にゆくはなふぶき 一郎
長閑さやすぐにきこゆる寝息かな 沙羅
御座の間に寝しもむかし花の山 沙羅
その奥に耳すましゐるさくらかな 一郎
山桜炎のごとき葉の芽ぶき 美智子
行く春に西行庵で追ひつきぬ 雄二
杉箸の細さ軽さや蒸鰈 光枝
花散りしあとの枝々やすらぎぬ 通江
奈落より千の光や花吹雪 りえこ
当歳の白犬の子よ名はさくら 櫂
春の星歌仙を巻いてをられるや 雪子
なつかしきこの花冷の百畳間 美那子
闇あらば闇へしだるる桜かな 忠雄
☆長谷川櫂選
【特選】
花曇しばらくぶりにものおもふ 貴子
今宵どの桜吹雪に眠らうか 一郎
その奥の花を見にゆくはなふぶき 一郎
桜湯をゆらせばほのと花ひらく 美那子
花びらの迷ひてゆくや吉野杉 史生
この宿を押し流さんと花吹雪 育子
家を出て春風のなかさまよひぬ 通江
幾千の髑髏眠らん花の山 嘉子
【入選】
ことしはや花とびちらふ信の忌 沙羅
ひとひらに心ただよふ花ふぶき 悦子
大岡忌ことしは花のふぶく中 美津子
散りつくし谷より返る花ふぶき 弘彦
大岡忌水なき空に桜かな 沙羅
売々てあと一笊の蕨かな 洋子
杖ついて花を見てをり西行忌 育子
国栖魚の腸のにがさも花のころ 二本
花散らす雨に集へるわれらかな 美津子
御座の間に寝しはむかし花の山 沙羅
菫咲くほとりに植うる若木かな 美津子
喜々として花に籠れる鳥は何 美那子
鬼植ゑし桜もあらん吉野山 雄二
みよしのの山ごと散りて花の暮 忠雄
夜桜におもかげしのぶ前登志夫 弘彦
今生の縁とおもふ花の句座 育子
花冷や黄泉路の妻のおもはるる 弘彦
忘れめや櫻花壇の花の冷 洋子
ひと口の酒で酔うたか花疲れ 貴子
塔いらか花の中なる吉野山 弘彦
なつかしきこの花冷の百畳間 美那子
折口も最後の弟子も桜守 遊歩
ごおとそおきようだいごいが空およぐ 宏(櫻花壇先代)
杖ついて花の絵巻の道をゆく 育子
・4月8日朝の句会
☆岡野弘彦選
【特選】
花守の子も花守となりしかな 櫂
麗はしの神の宿りし糸桜 りえこ
ひとひらの花散るごとく人逝けり 育子
わが子抱く春の重みといふべしや 竜樹
【入選】
遠き日や皆貧しくてつくしんぼ 雅子
幻の春の雪舞ふ吉野建 光枝
みよしのの花より白し春の雪 久美
はなびらの湯へと下りゆく吉野建 美那子
ほのぼのと闇さへ花の吉野かな 櫂
天上へ怒涛のごとく山桜 悦子
少年の一句かがやく山桜 洋子
ひやうひやうと笛を鳴らして大岡忌 二本
見送らん山超えてゆく春の人 光枝
桜蕊降る音を聞く吉野かな 嘉子
鳶高音押しひらきゆく花の山 久美
明易し法螺貝の声満山に 史生
わすれ雪ほのかに花の香りかな 久美
植えてなほ花のこぼるる苗木かな 沙羅
すこやかなやや授からん糸桜 悦子
ぱつと花咲かすことばや大岡忌 遊歩
春の雪ひとつ灯ともす如意輪寺 美那子
奈良茶粥花のほぐれてゆくごとく 美津子
それぞれの花の別れといふべしや 竜樹
☆長谷川櫂選
【特選】
鬼もまた花に憑かれてさまよふか 雄二
葉桜となりてゆさゆさ吉野山 二本
吉野から手足はみ出し朝寝かな 一郎
麗はしの神の宿れり糸桜 りえこ
いつか見し櫻花壇の花ふぶき 通江
無意識も意識も花のわが身より 忠雄
朝湯して黒髪花のごとくあり 悦子
奈良茶粥花のほぐれてゆくごとく 美津子
【入選】
花冷やいまひとたびの鶉粥 嘉子
花酔の顔を揃へて茶粥かな 史生
この宿を寿がんとや花に雪 史生
押鮨や花びらにして桜鯛 光枝
雪なのか幻なのか花なのか 通江
山の蜾蠃家に入りきて出てゆかず 弘彦
舞塚やかげろふ高くまた低く 嘉子
花冷や大峰山の豆腐売り 洋子
西郷と月照のこと草の餅 竜樹
この山の花びらかしら雪かしら 美津子
花の宿廊下は森の小道めく 通江
さらさらと茶粥すするや花疲れ 二本
紙衣一枚ふたりで分かつ花の冷 嘉子
一夜明け雪の別れとならうとは 雪子
日のあたる桜のやうにもの思ふ 竜樹
山中の鬼呼び寄せて花会式 遊歩
吉野川のぼつて花見鰻かな 雄二
葉桜の山に白山桜かな 育子
この宿の柱にもたれ花惜しむ 竜樹
なつかしき額かかげあり花の宿 二本
姿よしすでに花つけ若桜 雅子
杉樽に水のあふれて花うぐい 忠雄
人が植ゑ鬼が育てし山桜 美那子
富士を見て帰る東京さくらもち 美津子
深吉野は雪もて春を送りけり 嘉子
花冷を灯して眠る一夜かな 一郎
吉野紙花守しるす花の歌 竜樹
健やかな花の寝息の一夜かな 光枝
すがすがしき風わたりくる桜かな 豊
夜明けから湯けむり上る花の宿 洋子
花冷の背中まるめて朝寝かな 一郎
目つむれば吉野は花の盛りなり 二本
草餅や弟手伝ひ兄もまた 美津子
子がくれて草餅のまだやはらかき 久美
☆岡野弘彦
老いの身のふるさと近き花の山
☆長谷川櫂
花守の子も花守となりしかな