ネット投句(2020年6月15日)選句と選評
・この調子で。
【特選】
谷翔くる鬼のまぼろしほととぎす 07_福島 渡辺遊太
産土の夜ごと降らすや栗の花 11_埼玉 佐々木みほ
たいくつはのつぺらぼうやマスクして 11_埼玉 上田雅子
・たいくつなのつぺらぼうのマスクかな。原句は散文、しかもごちゃごちゃ。
黒南風やマスク外して深呼吸 13_東京 森徳典
・白南風や
掬ふたび光溢るるゼリーかな 13_東京 森凜柚
炎熱や記憶頼りに歩く道 13_東京 森凜柚
バロックの審美の金魚ひるがへる 13_東京 西川遊歩
・耽美の
夏座敷たれをらずとも懐かしき 14_神奈川 越智淳子
・なつかしく
素早さの尻尾に流る蜥蜴かな 14_神奈川 越智淳子
・尾へと流るる
軽鳧の子の川の広さをまだ知らず 14_神奈川 金澤道子
・は
梅雨晴や鳩も白雲見てゐるか 14_神奈川 原田みる
黒揚羽影から生まれ影と消ゆ 14_神奈川 中丸佳音
ひとつずつ花の名忘れ晩夏光 15_新潟 高橋慧
荒梅雨や雲の内なる山の音 20_長野 大島一馬
わだつみの深海水芭蕉万のゆらゆら 20_長野 柚木 紀子
ふと見れば夫は老人柿の花 21_岐阜 夏井通江
金魚玉金魚虚空に遊ぶかな 23_愛知 稲垣雄二
鮟鱇の心がわかる鯰かな 23_愛知 青沼尾燈子
質問なき学生ばかり日の盛り 26_京都 氷室茉胡
蝶の口いのちの水を一身に 27_大阪 安藤久美
・ひとすぢに
つまらなき予報通りの梅雨入りかな 27_大阪 高角みつこ
我がために母生きむとす額の花 27_大阪 内山薫
玉葱を吊り厄除けの我が家かな 27_大阪 木下洋子
・吊る。吊り、は散文。
七十の浅知恵育て夕端居 29_奈良 喜田りえこ
・育つ。育て、は自分にとらわれている。育つ、は自分を眺める。
中空を揺れつつ上る大毛虫 29_奈良 田原春
したたるやかんばせうづめ桃食らふ 33_岡山 齋藤嘉子
アッパッパ痩の止まらぬ副作用 37_香川 丸亀葉七子
朝顔や今朝濡れ縁の賑はしき 37_香川 曽根崇
我もまたアジアの民よサングラス 42_長崎 川辺酸模
谷川の巌にすずむ蝮かな 42_長崎 川辺酸模
大茅の輪地球丸ごと通さんと 44_大分 山本桃潤
父の日や父の椅子には父座る 46_鹿児島 大西朝子
初蛍山河は闇を惜しまざり 46_鹿児島 大西朝子
・惜しみなく
【入選】
白樺の肌剥くやうな蝉の声 01_北海道 高橋真樹子
新緑の朝日に放つ牧の駒 01_北海道 柳一斉
たまに有る原稿依頼鰻食ふ 03_岩手 川村杳平
新幹線十分ほどの麦の秋 04_宮城 石原夏生
ハブのごと鋭き力言の葉に 04_宮城 長谷川冬虹
・ごと、不要。
酔ふほどに言の葉熱きハブ酒かな 04_宮城 長谷川冬虹
県境を越えぬ分別かたつむり 05_秋田 佐藤一郎
おさらばの覚悟ふところ更衣 07_福島 渡辺遊太
馬鈴薯の花よつつましき孤高 07_福島 渡辺遊太
たちまちに玉のごとくに蛭ふくる 11_埼玉 園田靖彦
蝸牛たしかに皮膚をかじりをり 11_埼玉 佐藤森恵
投げ入れし紫陽花のまだ濡れてをり 11_埼玉 上田雅子
ひと部屋の畳嬉しき素足かな 11_埼玉 上田雅子
仕込まれて蔵に微睡む実梅かな 11_埼玉 藤倉桂
・瓶に、でよい。
集ひたや更衣して紅差して 11_埼玉 藤倉桂
天空は疫禍の外や夏燕 12_千葉 若土裕子
・天空や疫禍の外を
初すいか誕生日にと決めてゐし 12_千葉 若土裕子
薫風やほお叩きゆくはっとする 12_千葉 水町ゆの
・はつと
二つ忘れ一つ覚ゆる涼しさよ 12_千葉 池田祥子
引き継がぬ父祖の地のもの青嵐 12_千葉 池田祥子
柿若葉手には重たき志野の椀 12_千葉 麻生十三
鬱の国青黴愛でて火酒飲まん 12_千葉 麻生十三
・愛でん
黒部は夏薬師見平は神の庭 13_東京 稲垣京子
・は、不要。
求愛の光抱きしめ蛍飛ぶ 13_東京 稲垣京子
考へつまた考へつ夏三更 13_東京 横山直典
芍薬の三花現在過去未来 13_東京 岡 惠
枇杷の木の闇おそろしき端居かな 13_東京 葛西美津子
木下闇選ばなかった道ありき 13_東京 市村さよみ
・つ
何時からか枝折戸塞ぐ蜘蛛の糸 13_東京 森徳典
紫陽花の露煌めきぬ自粛明け 13_東京 森徳典
故郷に近づく電車青田風 13_東京 森凜柚
なめくぢりあの世この世を思ふまま 13_東京 神谷宣行
・思ふまま、再考。
爪先で雨の音聴くあめんぼう 13_東京 西川遊歩
追悼号開きしままや夕端居 13_東京 西川遊歩
西の堀東の堀が夏柳 13_東京 長井亜紀
・や
青芝にマスクはずして転がれり 13_東京 長井亜紀
・転がれりマスク外して青芝に
おにぎりをみなでほほばる田植かな 13_東京 楠原正光
あぢさゐやいつもの朝の庭いぢり 13_東京 楠原正光
梅雨寒に「ペスト」購ひ座りをり 13_東京 堀越としの
コロナ禍や夜濯ぎ見守る妻の星 13_東京 櫻井滋
アラートの鬼火を消して梅雨入りかな 13_東京 櫻井滋
・鬼火ともれる、現実はどうでもよい。どう描くか。
再開のカフェで早速レモネード 14_神奈川 伊藤靖子
危ないぞ車道に降りる鴉の子 14_神奈川 越智淳子
県道を毛虫一匹渡り切り 14_神奈川 遠藤初惠
・る
遠山も一品となし夏料理 14_神奈川 遠藤初惠
・であり
大瑠璃の声や釈迦堂切通 14_神奈川 金澤道子
三線を心で鳴らす沖縄忌 14_神奈川 三玉一郎
青々と匂ふ茅の輪をくぐりけり 14_神奈川 山本孝予
遠目にも寝息すこやか蛇の腹 14_神奈川 松井恭子
思ひのほかコロナ疲れの髪洗ふ 14_神奈川 松井恭子
亡き人の本の傍線夏深し 14_神奈川 中丸佳音
船虫の一匹たりと逆らはず 14_神奈川 湯浅菊子
七つまで目高数へてあとは無理 14_神奈川 那珂侑子
食卓にめだか三匹飼ふ女 14_神奈川 那珂侑子
北国の夕暮れ長し針槐 14_神奈川 服部尚子
情熱の母のピアノや薫る風 15_新潟 安藤文
熱々のカレーほおばり梅雨に入る 15_新潟 安藤文
蟻一匹何処より来て何方へ 15_新潟 高橋慧
飄々とあり父の遺せし夏帽子 15_新潟 高橋慧
清清しき白山一列の葱坊主 17_石川 花井淳
・一列に
焼酎をかさぬるホ句の夜なべかな 20_長野 金田伸一
郭公の遠啼く四時に覚めにけり 20_長野 金田伸一
五月豪華絢爛火と人と愛と死と 20_長野 柚木 紀子
一瞬永遠いまし天窮はつなつ 20_長野 柚木 紀子
われを見て鳬の逃げ行く青き空 21_岐阜 夏井通江
今衣脱ぎをる蛇のあを光り 21_岐阜 古田之子
・青光る
ジャズききて後のさびしさ月見草 21_岐阜 古田之子
朝はまづ金魚の数確かめる 21_岐阜 三好政子
・数を確かめて
図書館へ梧桐の並木抜けて行く 21_岐阜 三好政子
納豆の糸引き光る走り梅雨 22_静岡 池ケ谷章吾
・引き光る走り、うるさし。
容赦なく水古びゆく清水かな 23_愛知 稲垣雄二
・上五、再考。
夢を見てまた夢の世に昼寝覚 23_愛知 稲垣雄二
・へ
飲み会の画面に頒くる鮑かな 23_愛知 臼杵政治
この辺り十枚あらむ田植かな 23_愛知 宗石みずえ
俎板に此方を睨む大鯰 23_愛知 青沼尾燈子
我が生徒達いつか泉を探しに行こう 23_愛知 服部紀子
・リズムとととのえる。ほかの2句も。
釈迦堂の借巣に今日も燕の子 23_愛知 野口優子
夫との温度差さらに梅雨籠 26_京都 氷室茉胡
出来ちやつたと子から報告青嵐 26_京都 氷室茉胡
古団扇いつしか主に似てきたり 27_大阪 安藤久美
谺らは木暮の谷をさまよへり 27_大阪 安藤久美
避暑ならば富士屋ホテルに一度でも 27_大阪 高角みつこ
早苗田や心解ける水の色 27_大阪 山中紅萼
外は夏手と手を合はすガラス越し 27_大阪 内山薫
コロナ禍やピンクのマスクの青年医 27_大阪 内山薫
・ピンクのマスク青年医
パソコンを使ひこなさんさくらんぼ 27_大阪 木下洋子
ひそやかにマスクを外す薔薇の前 27_大阪 木下洋子
あぢさゐに雨の一夜の重さかな 27_大阪 澤田美那子
・重さあり、この、かな、ダメ。
蛍火や母の背中のうすきこと 27_大阪 齊藤遼風
慕ひ来る蚊の払へども払へども 28_兵庫 加藤百合子
・慕ひ寄る蚊を
我が影やじっと動かぬ山椒魚 28_兵庫 千堂 富子
・我が影にじつと動かず
夏つばめ電線のなき坂の街 28_兵庫 千堂 富子
寄り添ふもかなはぬ日々よさくらんぼ 28_兵庫 藤岡美惠子
百合の木や葉裏を返す風一陣 28_兵庫 髙見正樹
・裏、不要。
長梅雨や傘携えて朝歩き 28_兵庫 髙見正樹
てやんでえウィズコロナたあ鰻食ふ 29_奈良 喜田りえこ
麗しのアジアの空の田植かな 29_奈良 喜田りえこ
みほとりのものみな白し五月雨 30_和歌山 玉置陽子
田の角の掌ほどを植ゑにけり 30_和歌山 玉置陽子
梅雨蝶やかくれたきりのかくれんぼ 30_和歌山 玉置陽子
瓜しやぶる少なき歯もて婆赤子 33_岡山 齋藤嘉子
葉がくれに桃もぐ人か朝まだき 33_岡山 齋藤嘉子
梅雨晴間乱舞のもんしろ蝶々かな 37_香川 丸亀葉七子
なぜか好き雨の中なる山帽子 37_香川 丸亀葉七子
草かげろふ 風のそよぎに 逆らはず 37_香川 元屋 奈那子
・一字あき、不要。
自家用の新茶給はる縁の先 37_香川 曽根崇
著莪咲くや西行谷に水の音 37_香川 曽根崇
・を
一鉢のパセリをりをり摘む朝餉 38_愛媛 豊田喜久子
あぢさゐや放置自転車錆すすむ 40_福岡 北井乃峰子
ながらへてアジアの果てに夕涼み 42_長崎 川辺酸模
・上五、再考。
ほうたるや闇に穴あけ何を見ん 42_長崎 百田直代
行きわびて昼餉の目刺し梅雨くらし 43_熊本 筑紫秋蘭
麦の秋父が姉貴とよぶ媼 44_大分 山本桃潤
青き地球青きあじさい咲きにけり 46_鹿児島 大西朝子