アルペンローゼ! 「古志」2019年6月号から
インターネットのサイト「一億人の俳句入門」で「俳句の相談」というコーナーをつづけている。先日、ある男性からこんな相談が寄せられた。「季語の「石楠花」の子季語として「アルペンローゼ」は季語になりますか? それとも「アルプスの石楠花」と書くべきなのでしょうか?」。
アルペンローゼ! アルプスの薔薇! シャクナゲは世界中の山間部に自生しているが、十九世紀の帝国主義時代以降、各地の品種の交配がすすみ、豪華な花を咲かせる庭木になった。「アルペンローゼ」とはヨーロッパのアルプス地方などに自生するシャクナゲの原種である。
さて、この「アルペンローゼ」を石楠花の子季語として使えるかどうか。もちろん使える。歳時記でまだ認知されていない季語や子季語がいくらも眠っているからだ。
ただし「アルペンローゼ」にかぎらず、植物の季語について知っておくべきことがある。
植物にはさまざまな種類がある。ただしそれはみな植物学上の分類名、つまり科学の言葉であって、それがそのまま俳句の季語として使えるわけではない。つまり歳時記は植物図鑑ではない。
なぜなら植物学上の分類は俳句にとっては細かすぎ、煩わしすぎる。長くて使いづらい。一方、俳句の言葉は科学ほどの精密さを要しない。むしろおおざっぱなほうがいい。サクラにもさまざまな品種があるが、俳句では「桜」で十分。せいぜい山桜、枝垂れ桜くらいの区分けですむ。
細かな分類の名称を使えば、俳句はいよいよ細かくなってゆくだろう。「アルペンローゼ」「アルプスの石楠花」も単に「石楠花」でいいかもしれない。
「ネット投句」(五月十五日)から。
掬はるるとき蛍烏賊ふぶきけり 森凜柚
身中に巣食ひし癌や明易し 長井亜紀
水中眼鏡丸く吸付く顔ひとつ 西川遊歩
卯波立つ主の去りし砂の城 江藤鳥歩
重力のかたちうつくしハンモック 三玉一郎
一枚の葉の守り居る柿の花 山本孝予
働いたこの手この足菖蒲風呂 水篠けいこ
即席の大テーブルや五月来る 三好政子
噴煙の高々とある端午かな 氷室茉胡
釈迦の弟子みな痩せてをり堂涼し 氷室茉胡
筍の香り満ちたるお食ひ初め 高角みつこ
恐るべき七人の孫柏餅 齊藤遼風
お遍路の会ふも別るも鈴一つ 曽根崇
咲き初めしときより罌粟は風の中 豊田喜久子
(「古志」2019年6月号「俳句自在」を転載)