首里城まで 「古志」2020年11月号から
あけまして
おめでとう
ございます。
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二〇一九年十月三十一日未明、沖縄の首里城が炎上した。燃えさかり焼け落ちる正殿の大屋根をテレビで見ながら、真っ暗な海の闇のかなたで龍宮が焼けているかのような錯覚を覚えた。
あかあかと龍宮炎ゆる夜長かな 櫂
十三、四世紀といわれる創建以来、幾度も焼け落ち、幾度もよみがえってきた不死鳥のような建物である。今度もよみがえるにちがいないのだが、壊れては建て直される首里城の宿命は琉球沖縄の人々の苦難の歴史を象徴しているようで、そら恐ろしくもある。
沖縄句会で那覇を訪ねたのはその二日後、十一月二日だった。最終日四日の午後、飛行機出発まで時間があったのでモノレールで首里城まで出かけた。空中にある首里駅のプラットホームから以前は優雅な赤瓦の大屋根を望めたのに、今は大屋根のあったあたりまで秋晴れの青空が広がっているばかりである。ああ、何ということだという思いを抑えながら、つれない青空に朱色の大屋根を思い浮かべる。
帰り道、石のシーサーの工房を見つけた。肌理の粗い琉球石灰岩を刻んで作るので、よくある陶のシーサーより素朴でおぼろである。飛行機に乗せ、ここまで連れきたその一つが本棚からこちらを見ている。
では沖縄句会から。
端然と絶望があり百合白き 一郎
歌声は岩をはなれず沖縄忌 一郎
三線のいつしか秋の波の音 一郎
色鳥の声こぼしたる小皿かな 酸模
陵の骨の煌めく月夜かな 酸模
無念なる骨の眠れる花野かな 酸模
塹壕の窪みありけり大花野 桃潤
長き夜の古酒は孤独深めつつ 桃潤
鷹が見し原初の青や大皿は 桃潤
あかあかと秋のおはりの仏桑花 真知子
榕樹の気根ぶらりと小春かな 真知子
嘉手納基地横の広場は運動会 真知子
くば笠を吹き破つたる夕立かな 光枝
海風に破れ破れてくば団扇 光枝
秋の波越え来てここに神の恋 光枝
うつくしき鶲が来たり囮籠 美津子
さがり花終の一花の燃え尽きぬ 美津子
遠火事や古酒大甕沈黙す 美津子
(「古志」2020年1月号「俳句自在」を転載)