ネット投句(2020年12月15日)選句と選評
高齢化時代の俳句の鉄則
1)孫に溺るるなかれ
2)老いを嘆くなかれ
3)思ひ出に浸るなかれ
【特選】
すきま風縦横無尽の家に住む 13_東京 長尾貴代
疫病や真っ赤に染まる冬の暁 13_東京 畠山奈於
・つ
風倒の櫻を見舞ふ冬木中 14_神奈川 中丸佳音
殺戮の果のしづけさ鷹一つ 14_神奈川 三玉一郎
木枯らしや揺れる屋台で酌み交はす 14_神奈川 土屋春樹
ちやんちやんこふはりとはおり水仕事 21_岐阜 夏井通江
スウェターよりまだ出でこぬか母の首 27_大阪 内山薫
大年やそろりそろりと参ろうぞ 37_香川 元屋奈那子
人の目に腸さらす寒さかな 42_長崎 川辺酸模
熱燗や今日の身を置く高瀬舟 44_大分 竹中南行
【入選】
夕暮れのレモン垂らして牡蠣すする 01_北海道 芳賀匙子
・や
降る雪を灯す外灯舫ひ船 01_北海道 柳一斉
想念の無限回転冬の星 03_岩手 川村杳平
第三波乗り切らんとぞ根深汁 04_宮城 長谷川冬虹
・とや
越えて来し道を語れよ榾焚かん 07_福島 渡辺遊太
・下五、名詞
今年また弱み記さず日記果つ 11_埼玉 園田靖彦
小春日や人湧きいづる川堤 12_千葉 谷口正人
指ふれて首の驚く冷たさよ 12_千葉 池田祥子
炭をつぐ父の怒りは言葉なく 12_千葉 麻生十三
赤赤と魚さばく手に寒の水 13_東京 岡田栄美
・魚さばく手に赤赤と寒の水
おでん煮て流星群を待ってをり 13_東京 岡惠
・つ
北風に研いてゐしはいのちなり 13_東京 長井亜紀
粗大ごみ置場に箪笥十二月 13_東京 楠原正光
投句日をはや書き込まれ初暦 13_東京 楠原正光
美術館のカフェ静かなり木の葉散る 13_東京 堀越としの
風花やはやぶさ2号還り来ぬ 13_東京 櫻井滋
コロナ禍や深海の海鼠沈黙す 13_東京 齊藤拓
色づきて檸檬はここと名乗りけり 14_神奈川 越智淳子
息白く朝の散歩の犬と人 14_神奈川 遠藤初惠
まだ覚えきらぬ600句古暦 14_神奈川 遠藤初惠
日向ぼこ心あの木のてつぺんに 14_神奈川 金澤道子
はなやかに昨日に重ね柿落葉 14_神奈川 三浦イシ子
邪気払ふあの手この手の年の暮 14_神奈川 三浦イシ子
・あの手この手や
ぼろぼろの絵本繕ふ雪の夜 14_神奈川 松井恭子
セーターの白に着かへてランチかな 14_神奈川 水篠けいこ
鯛焼きや嬉しきことの一つあり 14_神奈川 水篠けいこ
冬耕の軽トラ畦に主を待つ 14_神奈川 湯浅菊子
・冬耕や
冬の空高くに吾子の濯ぎもの 14_神奈川 那珂侑子
煮凝の鯛は骨まで啜りけり 14_神奈川 片山ひろし
冬の虹短く太く消えにけり 15_新潟 高橋慧
・太く短かし
富士そばてふ立食ひ処討入り忌 17_石川 花井淳
数へ日の妻口ずさむ「異邦人」 17_石川 岩本展乎
・や
木守柿白き連山迫り来る 20_長野 大島一馬
・迫りけり
去年今年種馬牝馬眸子黒黒 20_長野 柚木紀子
今頃や山廬の軒の吊し柿 21_岐阜 梅田恵美子
見つからぬ事も一興茸とり 21_岐阜 梅田恵美子
凍てる月懐に入れあたためん 23_愛知 青沼尾燈子
静かさや師走の隅の通夜の椅子 23_愛知 青沼尾燈子
・隅に
雪が降るコロナの死者に雪ふりつむ 23_愛知 服部紀子
今しばしふたりの道が続く冬 23_愛知 服部紀子
灯を入るる仏間ひっそり寒に入る 25_滋賀 寺田光子
・つ
雑炊や夫に重ねし嘘いくつ 26_京都 氷室茉胡
孫に買ふ昔のおもちや終大師 26_京都 氷室茉胡
おでん酒通天閣の真つ赤なる 27_大阪 古味瑳楓
ごみ箱の口のそれぞれ年の暮 27_大阪 高角みつこ
まあたらし銀杏落葉の朝の香よ 27_大阪 高角みつこ
ため息をつけばたちまち年の暮 27_大阪 木下洋子
新札に替へて正月待つてゐる 27_大阪 木下洋子
革命の一年なりきちやんちやんこ 27_大阪 澤田美那子
だんだんと不安の募る年の暮 28_兵庫 千堂富子
わが子にも白髪ちらほら木守柿 28_兵庫 藤岡美惠子
母の忌や樽の白菜水上ぐる 29_奈良 喜田りえこ
寒卵医師看護師の尊かり 29_奈良 喜田りえこ
縫ひにけり猫に揃ひのちやんちやんこ 37_香川 丸亀葉七子
手焙りの仄かな火種いとしめり 37_香川 元屋奈那子
冬薔薇日陰りて虻しづかなり 37_香川 曽根崇
注射打つ女の指の冷たさよ 42_長崎 川辺酸模
ひややかや腸のぞく医師の声 42_長崎 川辺酸模
幼子に焚火のこころ教えたく 44_大分 山本桃潤
浦人の快気祝ぞ鰤一本 44_大分 竹中南行
矛盾突く校正のペン冬の月 44_大分 竹中南行
しずもれる暗き海へと消ゆる雪 46_鹿児島 大西朝子
タナトスの隣に御座す冬の母 46_鹿児島 大西朝子
葱刻むシミひとつ無き割烹着 46_鹿児島 大西朝子